「もうさ、……学校辞めたいんだよ」
「あら。あんたまた言ってるの」
「……いや、冗談で言ってるんじゃないんだって……」
日曜日の朝だけが、生きていることを実感できる。時間の流れもゆっくりと感じるし、奥まで差し込む朝日は、何だかとっても清々しい。お母さんはわたしに背を向けながら、キッチンでご飯の用意をしている。
「……辞めてさ、こっから歩ける高校に転校して良い?」
高校2年生になり、わたしは通学を含めた毎日の生活に嫌気がさしていた。「キツイのは最初だけだから」と言われ、1年生の時は我慢していたけど……いつの間にか目まいや吐き気に耐える日々になっている。でも、お母さんには細かく話はしていない。
お金を出してくれているお母さんに申し訳無くて……ずっと我慢していた。
(まぁ……わたしが悪いんだけどさ……)
何度後悔したか分からない。「ちゃんと勉強しなさいよ」と言われた時に、しっかりと勉強しておけば……家から歩いて行ける高校にだって行けたのに。後悔先に立たず……「この歳で何で罰ゲームを受けないといけないんだろ」と毎日思っている。
「何、あんた……いじめられてるとか……そういう事なの?」
「いや、そういうことじゃ無いよ」
「じゃ、何よ」
「……きつい。毎日」
「そんなの学校変えたって同じじゃない。……どうせ通うんだから」
「電車乗らなくて良いじゃん!」
わたしは体育座りの体勢を崩して、身を乗り出す。
「もうさ、疲れたんだよ。わたし」
「何よ。おばさんみたいな事言って」
「希望が見えないんだよ」
「希望が見えない?」
「そう。毎日毎日……電車に揺られてさ。臭いしキツイし……それに」
「……それに?」
お母さんがわたしの前にハムエッグを置いてくれた。どこか澄ましたような余裕を見せているのが、少し腹だたしい。
「それに……将来わたしも、あんな感じになるのかなって……」
「どういうこと?」
「みんな目が死んでるんだよ。電車に乗ってる人たち」
「あぁ……そういうこと。別にそれって学校変えたい事と関係無いじゃない」
「……そうだけど」
「冷めるわよ? 早く食べちゃって?」
そう言うとお母さんは妹の秋穂を部屋まで呼びに行った。秋穂は中学3年生。受験生だ。「お姉ちゃんみたいにならないように」といつも言っている。
「何? またお姉ちゃんぶつぶつ言ってるの?」
「……うるさいな」
「人生に疲れてるんだ」
「……」
「もう歳だもんねぇ」
「はぁ? まだ17だって!」
「はははっ! すぐキレる。マジ受ける」
「……お前……」
「はいはい。とりあえず食べちゃってくれる? 片付けがあるから」
お母さんが割って入ってくれた。
満員電車はキツイ。本当に徒歩で通える高校に行きたいと思ってはいる。でも……車内のサラリーマンの人やOLの人達の表情を見ているのも辛い。新聞を読んだり、スマホを見たりして過ごしているけれど、わたしの目から見ると、楽しそうに見えない。
「わたしも……こんな感じになっちゃうんだ」とどうしても電車に乗ると、感じてしまうのだ。学校へ行く意味も、勉強する意義も……何一つ見い出せない。友達にこのことを言っても、「あんたは気にし過ぎ」と言われて終わる。
ずっとつきまとう目まいとは別に、電車に乗れば乗るほど、わたしは生きている心地がしない。
「あら。あんたまた言ってるの」
「……いや、冗談で言ってるんじゃないんだって……」
日曜日の朝だけが、生きていることを実感できる。時間の流れもゆっくりと感じるし、奥まで差し込む朝日は、何だかとっても清々しい。お母さんはわたしに背を向けながら、キッチンでご飯の用意をしている。
「……辞めてさ、こっから歩ける高校に転校して良い?」
高校2年生になり、わたしは通学を含めた毎日の生活に嫌気がさしていた。「キツイのは最初だけだから」と言われ、1年生の時は我慢していたけど……いつの間にか目まいや吐き気に耐える日々になっている。でも、お母さんには細かく話はしていない。
お金を出してくれているお母さんに申し訳無くて……ずっと我慢していた。
(まぁ……わたしが悪いんだけどさ……)
何度後悔したか分からない。「ちゃんと勉強しなさいよ」と言われた時に、しっかりと勉強しておけば……家から歩いて行ける高校にだって行けたのに。後悔先に立たず……「この歳で何で罰ゲームを受けないといけないんだろ」と毎日思っている。
「何、あんた……いじめられてるとか……そういう事なの?」
「いや、そういうことじゃ無いよ」
「じゃ、何よ」
「……きつい。毎日」
「そんなの学校変えたって同じじゃない。……どうせ通うんだから」
「電車乗らなくて良いじゃん!」
わたしは体育座りの体勢を崩して、身を乗り出す。
「もうさ、疲れたんだよ。わたし」
「何よ。おばさんみたいな事言って」
「希望が見えないんだよ」
「希望が見えない?」
「そう。毎日毎日……電車に揺られてさ。臭いしキツイし……それに」
「……それに?」
お母さんがわたしの前にハムエッグを置いてくれた。どこか澄ましたような余裕を見せているのが、少し腹だたしい。
「それに……将来わたしも、あんな感じになるのかなって……」
「どういうこと?」
「みんな目が死んでるんだよ。電車に乗ってる人たち」
「あぁ……そういうこと。別にそれって学校変えたい事と関係無いじゃない」
「……そうだけど」
「冷めるわよ? 早く食べちゃって?」
そう言うとお母さんは妹の秋穂を部屋まで呼びに行った。秋穂は中学3年生。受験生だ。「お姉ちゃんみたいにならないように」といつも言っている。
「何? またお姉ちゃんぶつぶつ言ってるの?」
「……うるさいな」
「人生に疲れてるんだ」
「……」
「もう歳だもんねぇ」
「はぁ? まだ17だって!」
「はははっ! すぐキレる。マジ受ける」
「……お前……」
「はいはい。とりあえず食べちゃってくれる? 片付けがあるから」
お母さんが割って入ってくれた。
満員電車はキツイ。本当に徒歩で通える高校に行きたいと思ってはいる。でも……車内のサラリーマンの人やOLの人達の表情を見ているのも辛い。新聞を読んだり、スマホを見たりして過ごしているけれど、わたしの目から見ると、楽しそうに見えない。
「わたしも……こんな感じになっちゃうんだ」とどうしても電車に乗ると、感じてしまうのだ。学校へ行く意味も、勉強する意義も……何一つ見い出せない。友達にこのことを言っても、「あんたは気にし過ぎ」と言われて終わる。
ずっとつきまとう目まいとは別に、電車に乗れば乗るほど、わたしは生きている心地がしない。



