(臭っさぁ……)

腕を回して鼻を守りながら、横浜駅から電車に何とか乗り込む。

わたし――高宮雪乃は、この超満員電車に乗って毎朝登校している高校2年生。

肌と肌がピタリと触れあう朝の車内は、一歩でも気を抜けば、吐き気を催してしまうほど。特に8月ともなれば地獄以外の何ものでもない。

香水は理科の実験のように、鼻の奥に突き刺さり……Yシャツを着ているおじさんからは黄色に臭いが背中の裏から滲み出ている。

(……うっ……気持ち悪……)

ゴウンッ……

電車が大きく弧を描くように曲がると、ドアにへばりついているわたし目掛けて、一斉に雪崩が起きる。

(いやぁ……)
(うぐっ……)

たった10分。たった10分間我慢するだけで良い。駅に到着すると、今度は相撲の決まり手のように一気に外へと押し出される。

(うわっ……)
(……もう嫌だ)

わたしの肺の中は、工場の排気ガスを吸い込んだかのような違和感。これが毎日続く……。人形の様に表情の無い大人たちに混ざりながら……コンベアに乗っているよう改札口へと流されていく。

(……!)

平らなコンクリートがまるで海面のように揺れる。通学の時に襲ってくる目まいは、とっくの昔に「渦」へと進化を遂げていた。

(気持ち悪……)

人の波から離脱して、左側の壁にもたれかかる。目を瞑っても、真っ暗やみが円を描くようにとにかく回っていた。

(何か、病気なのかな)

いつも抱えている吐き気をぐっと我慢していると、体もぐったりと疲れてしまう。ほんのちょっとだけ涼しくなってきたから……9月で良かったと思う。