(……痛い!!!)

ほっぺたに痛みを感じて、思わずわたしは目を覚ました。

(……!)

目を開けると、クロちゃんがわたしのほっぺを舐めてくれてる。ザリッ……ザリッ……ザリッ……という音が聞こえる。

「……クロちゃん、痛いってば……」
痛みと嬉しさの板挟みになったけど、しばらくわたしは我慢した。

「最後に、雪乃ちゃんにお礼をしてくれてるんだろうねー」
様子を見ていたおばちゃんが、けらけらと笑っている。

「ほんとに、3匹とも……あなたの事、大好きみたい」
「昨日言ったでしょー? 素直なんだよ? この子達は」
起き上がると、わたしの横に、ぺぺちゃんもハチくんも腰を下ろしていた。

「いやー……もう……みんな可愛いなぁー……」
わたしは3匹の頭を順番に撫でていく。

「にゃー……ん」
「にゃーーー……」
どことなく鳴き声が寂しそうな感じがする。

「この子達はね、ちゃんと分かってるんだよ。雪乃ちゃんがもう帰るって事」
「……そっか。賢いね。あなた達」

「にゃああああーー……」
細く悲しそうな声を出すクロちゃん……。

「大丈夫よ? あなた達。わたし……また絶対来るからね」
「にゃああー……ん……」
「にゃーーー……ん……」
頭をコツコツ……スリスリ……わたしの腕に押し付けてくる。
ずっと……ずっと。擦り付けることを止めようとしない……。

――

――

――

「さ、忘れ物は無い?」
「うん。大丈夫」
おばちゃんはキーを回してエンジンをかけた。

「あー……もー……みんな見てるよー……」
車の外には、3匹の猫たちがお見送りのために、外に出ている。

「ふふっ……また会いに来たら良いよ」
「休み休み頑張りなさい? きつかったら休んだって良いんだからね?」
砂利道をゆっくりとバックさせる。

「うん。きつかったら休むから。大丈夫。また来ないとだし!」
「そうそう。自分を大切にしてあげてね」
「それに……今度は猫の抱っこのやり方。教えてあげる」

向きを変えて、車がゆっくりと動き出す。
……3匹の猫たちが、車を追って走り出した。

「あー……追っかけてくる……泣いちゃうでしょー!!」
わたしは窓を開けて、顔を出す。3匹の猫たちに向けて大声を出した。

「ありがとー!!」
「また来るからねー!!!」
「また遊ぼうー!」

3匹の猫たちの姿は、徐々に……徐々に……小さくなっていった――

クロちゃん、ハチくん、ぺぺちゃん?
絶対にまた来るからね。

黄色いデイジーの咲く頃に――


【完】