春おばちゃんは「これ、カフェイン入って無いから……飲んでも眠れるよ」と言って、ルイボスティーを出してくれた。匂いも何だか、とっても優しい。

「何これ? ……めっちゃ飲みやすい……」
「お客さんに出すのよ。サービスで」
太く、白い湯気が立ち上る。わたしは両手でマグカップを押さえてふーふーと息をかける。

「あっ……」
フローリングをぐるぐる回っていたクロちゃんが、ぴょんとわたしの膝に乗ってきた。

「あははっ……クロちゃん、雪乃ちゃんの事、だいぶ気に入ったみたいねー」
おばちゃんはわたしの膝で丸まっているクロちゃんに話かける。

「可愛いなぁ……」
膝の上から、柔らかい温かさが伝わってくる。もぞっとわたしが膝を動かそうとすると、「にゃん」と軽く鳴いて嫌がる。まるで「動かないで!」って言ってるみたい。

「それで、ここに来たのよ」
「……そんなことがあったんだ……」
「そう。中途半端な都市に行くくらいなら……田舎に行っちゃえって思ってね」
「すっごい自然豊かだもんね。ここ」
「でしょ」

おばちゃんはマグカップを持ったまま、すっと立ち上がり窓の側にゆっくりと歩いた。……後ろをペペちゃんが尻尾を揺らしながら、ついていく。

「……来た瞬間に、気に入っちゃってね」
「あ、ここだ! みたいな」
暗闇に包まれた、広がる田んぼにうっとりした視線を向けた。

「すっかり元気になったもん。ほとんど治っちゃったよ」

くるっとわたしの方を振り返り、おばちゃんは穏やかな口調で続ける。

「だからさ、雪乃ちゃんも……のんびりしていけば良いんだよ」
「疲れ、取れるよ? きっと」
ゆっくりとしゃがみ込み、ふくらはぎにぺとっと頭を摺り寄せていたペペちゃんの頭を優しく撫でる。

「ね? ぺぺちゃんも……そう思うでしょ?」
「雪乃ちゃんの事、好きだもんね? あんた達」

「にゃぁーん」
おばちゃんの顔を見て、ぺぺちゃんは可愛らしく鳴いた。