(……はっ!)

何かの重みで目が覚める。

(重……何? これ……)

仰向けで寝ていたわたしのお腹の上には、ハチくんがデンと乗っていた。

(いやー……猫が寝てるー……)
(こんな近くに……)

目を瞑り、手足を器用に折り畳んで気持ち良さそうにしている。……近くで見ると、目尻が少し垂れているように見えて、とっても可愛い。

(目、瞑ってるのに……何だか笑ってるみたいじゃん)

思わず一人、くすっと笑ってしまう。

寝ている体勢のまま、少しだけ首を上げて周囲を見回すと、クロちゃんとペペちゃんもわたしの腰の辺りで丸まっていた。

(いやぁー……可愛いー……)

広い窓にはさっきまで西日が入り込んでいたけど、気付けば夜が近づいている。電車の音も、車の音も何一つ無い……静かな部屋。外に広がるのは辺り一面の緑。そして部屋の中にはのんびりと寝ている3匹の猫たち……

(重いけど……ゆったりできるな……)

目を瞑って、頭の中をからっぽにするだけで、体の中に力がみなぎるような感覚になった。

ぶぅん……と車が近づく。おばちゃんが帰ってきたみたい。猫たちは一斉に反応して、バッと窓に顔を向けた。

(おばちゃんが帰ってきたの……分かるんだ)

そのままじーっと窓を見つめる3匹の猫たちの横顔。「ママを待ってたんだな」と思い、何だかとっても愛おしく感じた。

――

――

――

「大したものは無いけどね」とおばちゃんは言うけれど、用意してくれた晩ご飯はどれも美味しい。ハンバーグは特に格別……デミグラスソースが、レストランで食べてるみたい。

「こんな美味しいなんて……おばちゃんの所に来るお客さん、幸せだよね」
「あら。そう言ってくれるなんて、嬉しいわね」
「だってめっちゃ美味しいよ! これ。毎日お店やれば良いのに」
「たまにやるから良いのよ」

握りこぶしほどの大きさのハンバーグ。ナイフで切ると、中から白い湯気と一緒に、汁がじゅわっと溢れ出てくる。

「たまにやるのが良いんだ」
「そうよ」
「ふぅん……おばちゃんてさ、何で大分に来たの? 前から計画してたとか?」
「ふふっ……」
昔を思い出すかのように、優しく笑いながら……両手でスープを口元に運ぶ。

「……そうだなぁ……」
「え……何? 気になる」
「知りたい?」
「うん。知りたい」
「……私、病気になっちゃってさ」
予想していなかった答えに、わたしは固まってしまう。

「……えっ? 病気?」
「そう。たぶん……雪乃ちゃんと似てるかなぁ」
「わたしと……?」
「うん。雪乃ちゃんが病気って言いたい訳じゃ無いんだけどね」
ナイフとフォークを持ったまま固まってしまった。

「ある日、目まいが酷くなっちゃって」
「……目まい?」
「そう。会社行こうとすると……床が波打つのよ。ぐにゃあ~って」

(あっ……)
(わたしと同じやつ……)

「ずっと我慢してたんだけどね……」
「……」
「熱も出ちゃって。突然涙も止まらなくなっちゃってさ」
何かを穏やかに思い出すような目線で……窓の外を見ているおばちゃん……

「仕事行く前もそうだし。……会社出て、家に帰るのに駅に向かうでしょ? その時なんか……泣きながら歩いてたからね。私」
「……そうだったんだ」
「限界だったみたい。私」
「……」
「多分、私には都会は合わないんだと思う」
「……そっか」

にゃーんと鳴きながら、3匹の猫たちがおばちゃんの元に集まってきた。話の内容……理解できてるのかな……おばちゃんを慰めに来ているようにも見えた。

「大丈夫だよ!」
「僕たちがいるよ!」
わたしには何だか……猫たちが励ましているようにも見える。
この子たちの目。何でこんなにも……真っすぐで、温かいんだろう……?