「着いたよ」
でこぼこのアスファルトを登り終えて、最後1メートルほど砂利道を登る。春おばちゃんと車のエンジンを切ると、ドアを開けて、外へと出た。
「いやぁー! ……風が気持ち良い……」
助手席のドアを開けて外へ出ると、ふんわりと緑の香りが心地良い。近くでは鳥のさえずりも聞こえてくる。
「すっごい良い匂いなんだけど!」
緑の匂いがふわっと鼻の奥まで届く。驚いた。向こうじゃ嗅いだことがなかった匂い。森の匂い……緑の匂いってこんなに良い匂いなんだ……。
「さ、こっち」
おばちゃんが玄関に向かったその時、軒下からぬっと姿を現したのは……猫だった。
「にゃぁ~ん」
「にゃぁ~ん」
2匹の黒猫。のっそりとおばちゃんに近づいて行く。おばちゃんは鍵を地面に一旦置いて、しゃがみ込んだ。
「あら~、お散歩してたのかな?」
「にゃーん」
頭をよしよしと撫でると、黒猫たちは目を細めてうっとりとしている。
「この子達よ。さっき言ってたの」
「あっ……猫のこと……」
「そうそう」
「黒猫だったんだ」
「もう1匹、いるけどね」
「えー……3匹?」
「そう。こっちの子がクロちゃん。で、こっちがハチくん」
「クロちゃん……ハチくん……」
(うわぁ……似てて分かんないな……)
家の中は凄く綺麗で新しかった。入口には猫の顔をした編み物が置いてある。赤に青。黒の編み物もある。
(200円……? 値段が付いてる?)
「何この編み物。売ってるの?」
わたしはその編み物を手に取って、おばちゃんに尋ねた。
「それ? それで食器を洗うんだよ。スポンジの代わり」
「……誰に? 誰か来るの?」
「言ってなかったね。忘れてた」
はははっとおばちゃんは笑いながら言う。
「ここ、お店もやってるんだよ」
「お店?」
「そう。簡単にランチだけだけどね」
「えー……そうなんだ」
たまに来るお客さん向けに、自分で編んでいるのだと言う。「だからこんなに綺麗にしてるんだよ」と言われて、わたしは納得した。
「わぁ……」
リビングに案内されて、わたしは思わず声を上げた。綺麗な花が飾ってあり、中央には装飾の施されたテーブル。カウンターキッチンになっていて、そこで作ってから料理を出すらしい。
「ま、狭いけどね」
「でも、綺麗だねー……テーブル、1つなんだ」
「そう。予約制にしてるから。1人でやってるからね。そんな人数入れられないのよ。1軒家だから狭いし」
(……隣は和室……)
お客さんが入るリビングの隣は、6畳ほどの和室になっている。テレビや、子供向けのおもちゃが散乱している。
「そこは、小っちゃい子がいる時の部屋」
「あぁ、キッズスペースみたいな……感じ?」
「そうそう。良く言えばね」
キャリーケースを畳みの上に優しく置くと、ゆらりと奥から猫が歩いてきた。
「……にゃおぉーん……?」
艶やかでスラリとした体型。ピンと伸びた尻尾をくねくねと波のようにくねらせながら、ゆっくりと私に近づいてくる。
(えぇぇ……)
恐々身構える私をよそに、ひざ元までやってきて、コツンッ……と私の膝頭に頭をぶつける。
「あははっ! ご挨拶よ? それ」
けらけらと春おばちゃんがキッチンでお皿を拭きながら笑う。
「えっ……? 挨拶なの?」
「そうよ。歓迎されてるみたいね。良かったじゃない!」
「……」
「……嫌いな人には、寄り付かないからね。この子」
「……そうなんだ」
「うん。猫ちゃんってね、正直なんだよ」
「へぇ」
「……人間と……違ってね」
ちらりと視線を落とすと、純粋な瞳でまじまじと私の顔を見つめる黒猫。
「か……可愛いね……この子」
小刻みに振るえる人差し指で、そっと頭に手を添えた。
(うわぁ……ふっさふさじゃん……)
「その子が、ペペちゃん。女の子だよ」
「ぺ……ペペちゃんか……よろしく」
「うにゃぁ~ん……?」
わたしの指に、口をごしごしと擦り付けていた。
(いやぁー……噛まれないかなぁー……)
こんなに猫に囲まれるなんて……初めての経験だった。
でこぼこのアスファルトを登り終えて、最後1メートルほど砂利道を登る。春おばちゃんと車のエンジンを切ると、ドアを開けて、外へと出た。
「いやぁー! ……風が気持ち良い……」
助手席のドアを開けて外へ出ると、ふんわりと緑の香りが心地良い。近くでは鳥のさえずりも聞こえてくる。
「すっごい良い匂いなんだけど!」
緑の匂いがふわっと鼻の奥まで届く。驚いた。向こうじゃ嗅いだことがなかった匂い。森の匂い……緑の匂いってこんなに良い匂いなんだ……。
「さ、こっち」
おばちゃんが玄関に向かったその時、軒下からぬっと姿を現したのは……猫だった。
「にゃぁ~ん」
「にゃぁ~ん」
2匹の黒猫。のっそりとおばちゃんに近づいて行く。おばちゃんは鍵を地面に一旦置いて、しゃがみ込んだ。
「あら~、お散歩してたのかな?」
「にゃーん」
頭をよしよしと撫でると、黒猫たちは目を細めてうっとりとしている。
「この子達よ。さっき言ってたの」
「あっ……猫のこと……」
「そうそう」
「黒猫だったんだ」
「もう1匹、いるけどね」
「えー……3匹?」
「そう。こっちの子がクロちゃん。で、こっちがハチくん」
「クロちゃん……ハチくん……」
(うわぁ……似てて分かんないな……)
家の中は凄く綺麗で新しかった。入口には猫の顔をした編み物が置いてある。赤に青。黒の編み物もある。
(200円……? 値段が付いてる?)
「何この編み物。売ってるの?」
わたしはその編み物を手に取って、おばちゃんに尋ねた。
「それ? それで食器を洗うんだよ。スポンジの代わり」
「……誰に? 誰か来るの?」
「言ってなかったね。忘れてた」
はははっとおばちゃんは笑いながら言う。
「ここ、お店もやってるんだよ」
「お店?」
「そう。簡単にランチだけだけどね」
「えー……そうなんだ」
たまに来るお客さん向けに、自分で編んでいるのだと言う。「だからこんなに綺麗にしてるんだよ」と言われて、わたしは納得した。
「わぁ……」
リビングに案内されて、わたしは思わず声を上げた。綺麗な花が飾ってあり、中央には装飾の施されたテーブル。カウンターキッチンになっていて、そこで作ってから料理を出すらしい。
「ま、狭いけどね」
「でも、綺麗だねー……テーブル、1つなんだ」
「そう。予約制にしてるから。1人でやってるからね。そんな人数入れられないのよ。1軒家だから狭いし」
(……隣は和室……)
お客さんが入るリビングの隣は、6畳ほどの和室になっている。テレビや、子供向けのおもちゃが散乱している。
「そこは、小っちゃい子がいる時の部屋」
「あぁ、キッズスペースみたいな……感じ?」
「そうそう。良く言えばね」
キャリーケースを畳みの上に優しく置くと、ゆらりと奥から猫が歩いてきた。
「……にゃおぉーん……?」
艶やかでスラリとした体型。ピンと伸びた尻尾をくねくねと波のようにくねらせながら、ゆっくりと私に近づいてくる。
(えぇぇ……)
恐々身構える私をよそに、ひざ元までやってきて、コツンッ……と私の膝頭に頭をぶつける。
「あははっ! ご挨拶よ? それ」
けらけらと春おばちゃんがキッチンでお皿を拭きながら笑う。
「えっ……? 挨拶なの?」
「そうよ。歓迎されてるみたいね。良かったじゃない!」
「……」
「……嫌いな人には、寄り付かないからね。この子」
「……そうなんだ」
「うん。猫ちゃんってね、正直なんだよ」
「へぇ」
「……人間と……違ってね」
ちらりと視線を落とすと、純粋な瞳でまじまじと私の顔を見つめる黒猫。
「か……可愛いね……この子」
小刻みに振るえる人差し指で、そっと頭に手を添えた。
(うわぁ……ふっさふさじゃん……)
「その子が、ペペちゃん。女の子だよ」
「ぺ……ペペちゃんか……よろしく」
「うにゃぁ~ん……?」
わたしの指に、口をごしごしと擦り付けていた。
(いやぁー……噛まれないかなぁー……)
こんなに猫に囲まれるなんて……初めての経験だった。



