〜〜〜ダンパー〜〜〜
{少し危険な波。上級者は楽しめるかも。}
〜〜〜6年前〜〜〜
「今日はぜんぜん波良くなかったね」
「ああ、そんなに高くなかったね。
けど、グウと僕だけで入るのは
あれくらいじゃないと…。
…ちょっと、脚見せて?ぶつけただろ」
夏休み前の、高校へ行く前の時間。グウは小学校へ行く前の時間。いつも週に半分くらいは2人で海に入る。
海に近いグウの家の庭先でウェットを脱ぎ、海水、砂を流す。シャワーはなく、容器に溜めた水を頭からかける。グウにも頭からかける。そしてさっきボードがぶつかったであろうスネを見ると、血が出ていた。
「…ぶつけたら言えよ…傷深かったら
次、海入るのも考えなきゃだろ…?」
僕はウェットを腰まで脱いでしゃがみ、ウェットを全部脱いでタオルを腰に巻いたグウの脚を自分の膝に乗せながら傷を良く見る。
「これくらい平気」
グウは怪我を恐れない。
僕より小さい身体なのに、既に波乗りの技術は変わらない。技への追求心…ほんと好きな事にはとことんの性格。そりゃ上手くなるはず。
負けず嫌いの僕の、更に上をいく負けず嫌い。
「平気なのは分かるけど、言えってば。ふふっ…
怒ってないし…お前自分じゃ消毒も何もしないだろ?
だから治りが悪いんだよ…先にシャワー浴びてて。
救急箱借りとくから」
庭先でウェットを脱いで汚れを流したら、どちらが先とか決まってないけどシャワーを浴びる。同時に入る事も。
先に頭を洗ってるグウの隣で、シャワーを借りる。
毎回の事だから僕用ボディソープ、シャンプーリンスは置かせて貰っている。
「…寒っ!こんな水みたいので…」
設定温度の好みが違う。
僕は少し熱めが良いけどグウは冷たいのが良いらしい。
グウが温度を上げたけど、直ぐには熱くならず…
「洗い終わった?流すよ?」
熱くなるまで出してるシャワーで、そのままグウのシャンプーを流してやる。
…至る所に傷がある。サーフィンで作ったケガ。
顔を切った時は焦ったな…頬の傷跡、小さくて分からないくらいだけど、指でそっとさする。
「仁兄、気にしすぎ…
頬なんて、あっという間に治ったし
傷跡なんて…仁兄しか気づかないし」
気にしすぎにもなる。
5個も上で、2人で波乗りしててケガをさせたら全部僕の責任だ。
僕の手が掴まれて、抗議…じゃなくて僕のフォローをするグウ。優しいし、僕の気持ちが分かるからか、頭の回転が早いからか…?
僕にとってそんなグウがどれ程心地良いか…
「去年だよね、気にしすぎじゃないよ。
こんな可愛い顔が、顔面血だらけになってたら
こっちは血の気が引いたよ…」
手は掴まれたまま振りほどかずに、大事にさすった頬を
今度はつねる。もう片方はシャワーを浴びせながら。
されるがまま…気持ち良さそうに目を瞑るグウ。
閉じた目元も可愛いし、バランス良い鼻、フェイスラインは少しふっくら。
まだ子供だからかな…少し開いた口、口元も可愛い。
そして見た目より上をいく可愛い性格。
衝動的にそっと、軽くキスをしてしまった。
けどこの衝動は今始まったわけじゃない。
何年も前から…グウは今更ビックリもしない。
「シャワー終わり。身体拭いたら教えて?」
グウをバスルームから出し、我慢していた溜息を思い切り出してしまう。
何年も僕は何をしてるんだろう。
お互い裸で、流石に唇へキスはマズイだろ。
もうやめなきゃ。親が子供へキスする様な気持ちじゃ無くなってる気がする。
おかしな思考をグチャグチャに、急いでシャンプーと一緒に頭を洗う。全部ひっくるめて、無かった事にして洗い流すんだ。
「仁にーい…拭いたよー」
大丈夫…やましい気持ちは洗い流した。
「タオルとって?」
ドアの隙間から手を伸ばし、受け取ったタオルで大雑把に全身拭いて洗面所にタオルを巻いた状態で出る。
下着だけのグウ。
まだ子供なのに、どんどん成長する身体。見慣れた身体なのに何故かどうしても意識してしまう。
「血、止まってるかな…」
早く手当てして、お互い服を着なきゃ。
また僕の膝上にグウの脚を乗せ、消毒して絆創膏を貼ったら逃げるようにバスルームに戻った。
シャワーを流しながら、今までに何度、バレないように吐き出しただろう…
学校の帰り道、友達と寄り道したりして高校生最初の夏を楽しもうとは思っていた。
「仁君は好きな子いないの?
学校の子とか…中学ではどうだった?」
何となく気の合う同級生男女6人で、ファーストフード店でポテトを食べつつ涼んでいた。
その中でも気さくに話しかけてくる女の子はいつもニコニコしてて、僕も気を使わずに話せた。
「…いないねー。今も、前も」
「へー、草食なのかな?
モテるだろうし、落ち着いてるから
長く付き合ってる彼女がいそうなのに」
「落ち着いてないよー」
「いや、落ち着いてるよ。
女子と話す時テンション低いもん。
慣れか落ち着きか…落ち着きでしょ?」
「…そういうキミも落ち着いてるよ?」
「え?私はドキドキしてるよ?
ただ仁君と…合わせれてるのかも」
照れたようにクシャッて笑う彼女。
一瞬、グウの笑顔に似てるな…って思った…。
am5:00 〜〜現在〜〜
あの一瞬のせいで、僕は彼女からの告白を受け入れてしまったのかもしれない。
ひと通り、愛せると思った。1年くらい付き合った。
好きは好きなのに、どうしてもグウと比べてしまう自分に、自分で疲れてしまった。
大学に入ってから海に入る時間が無くなり、グウと過ごす時間が減った。好きな人は出来なかったけれど、好かれて交際を申し込まれた相手にどこかグウに似てる所を探す…
たまに会うグウを、どうしても彼女より愛おしく思ってしまう。
彼女じゃなくて、次第に彼氏と…付き合ってもそうだった。けどそんなんじゃ相手も僕も疲れるだけ。
グウと会わずにいたら、愛してくれる人を愛せるかと思ったけど、気持ちは変わらなかった。
重症だから、諦める事にした。
幸せになれなくても、グウの近くで…海の近くで…癒されていたい。
キス。
愛情表現…されると嬉しいもんだな。
店で一方的にされたキス、牛丼を食べた帰りに衝動的にしてしまったキスや昔のことを思い出し、海辺で心地良い潮風と波の音を感じながら、何人かいるサーファーの中からグウを探す。
本気なはずは無いから期待はしない。
家族、兄弟、それ以上の気持ちだとしても、僕のようなドロドロした愛情とは絶対違う。
期待はしないけど、居心地が良いからまた近くにいたいんだ。例え今年だけでも。
砂浜に座る僕に、グウが沖からこっちに手を振ってきた。僕も振り返す。
良い波が来た。タイミング良く乗り、加速も上手い。波のトップで一回転。…上手。
そのまま波と一緒に浜辺に来たグウ。
「今日はまぁまぁの波のだから
仁兄も入れば良かったのに!」
「…今度ね、久しぶりすぎて1日体力持たなそうだし。
グウ、アップスダウン(加速)安定したし速くなったね」
「まぁね…4年?5年前とかに比べたらね」
「…大会で見てるよ?
ネットとか…大会見に行った事もあるし」
「…そうなの??そういう時は言ってよ?!
全くサーフィンに興味無くなったのかと……俺にも…」
「…そのうち海入ろうと思ってるし…
…グウに教えれる事は無くなったけど、
上手くなってるのは分かるから褒める事は出来るかな。
…大会の度に応援してたよ」
「仁兄に褒めて欲しい。
俺はそうやって伸びてきたんだって実感してる。
小さい頃…波の怖さよりも、
上手になりたくて…褒められたくて…
だから出来ない技にも何度も挑戦できた」
目線を合わせず…照れてるのかな。砂を動かす足元を見ながら話してる。
「グウが負けず嫌いだからだよ」
「うん、負けず嫌いだけどね。ふふっ」
クシャッとした笑顔。
この何年も…思い出したくても、思い出そうとしても、そういう時は出来ないもので…余計会いたい気持ちは大きくなった。
懐かしい…大好きな笑顔。
顔つきが大人っぽくなっても、変わらないものなんだな。
「…朝ごはんいる?
新メニューの為にサンドウィッチを何個か
試作してみたんだけど、食べる?」
「うん。食べたい!
今食べたい!チョーお腹ペコペコ!」
「あ、じゃあ持ってくるね?
まだ海入るでしょ?…こんな波いいし…」
「…今日はいつもより早く入ったし…
ダメだ!サンドウィッチって聞いたら…
お腹がペコペコで力が出ない……」
「…じゃあ、僕のパンで元気100%ー!!」
あ○○ーんまーーん♪!
グウもふざけて歌いながら、僕と一緒に歩き出す。
途中で自転車をひいたり、2人乗りしながら進んで店に着いた。
「持ってくるから待ってて」
「え?一緒に食べようよ」
「…お前ウェットじゃん…」
「すぐ着替えるから!
ここで水使わせて貰って、
シャワーも貸して?で、服も貸して?
今日学校始まるのいつもより遅いんだ。
…お願い!ゆっくりしてっていいでしょ?」
「そうなの?…まぁシャワーも服も…
上で食べてっても良いけど…」
Tシャツ短パン、下着は新品を出して、バスルームのドアの所に置いた。1人で住むには十分だけど、脱衣室なんて無いし至る所が狭い。ご飯を食べるスペースでさえ、2人でとなるときつい。書類で山になった机や床を片付けてやっと。
「仁にーい。タオル貸して?」
タオルを忘れていた。急いでタオルをグウに渡したけど、グウの裸が目に入って何も言葉を出せなかった。
…気まずい。
「…?ありがと。…仁兄?」
「ん?あ、何飲む?ジュース?無いな…」
「なんでもいいよ?ベストは牛乳!」
「…ああ、好きだよね。あるある」
ボクサーブリーフを履いただけで、髪にタオルを乗せ、ガシガシ拭いてる。さっきよりは目線に困らなくなったけど…
背も僕と同じくらいになってから、大学に入って会う時間があまり無くなり、たまに会えたグウは僕よりも男だった。
グウの体にこんなにドキドキしていて、そんな事に気づかされる。
自分でグウを特別な存在だと思いながら、昔からドロドロの愛情を持ち、男らしくなるグウに抱かれる事を想像する…
親心、兄弟のような愛情の仮面を、これからもずっと外さずに…バレないようにしないと…
「うっまい」
お腹ペコペコなだけあってすごい勢いで口の中に詰め込む。
「どれをメニューにするか決めるから、
良く味わってね?」
「んーー?とりあえずコレうまい。
野菜はもっと少なくてもいいけど」
「……もっと野菜入れるつもり。
オシャレにヘルシーにするから…」
「ふーん、オシャレにヘルシー。
俺に聞くべきじゃないね。仁兄食べないの?」
「ああ、食べる食べる」
またうっかりグウの上半身に目が行ってしまい、引き締まった筋肉が沢山付いている事にビックリしたけど、口には出さなかった。
「あーーお腹いっぱい。ごちそーさまー」
無防備に横に寝転ぶグウ。
「食べて直ぐ横になるなよ…」
「無理ーー。お腹いっぱいだし、眠いし…
この海の後の気持ち良いダルさ…わかるでしょ…
仁兄もココおいでよ。少し休憩…」
クッションを枕に寝そべっったまま、こっちを見ずに手招きして僕を呼ぶ。
まぁいいか。
添い寝くらいじゃ仮面は取れない。
並んで横になり、僕は窓からの風を感じて、目を瞑る。
「仁兄」
「なに」
「…今、付き合ってる人いるの?
昨日の人と付き合ったりとか…」
「!…付き合ってないよ。
大学の後輩でこれから仕事を……
っていうか、何で男と…って思うんだよ…」
「…ごめん。あり得そうと思って…
仁兄は男にもこういう目で
見られてるんだろうなって…」
「こういう目って…っ」
何だよ、と聞こうしたのに…目の前にグウの顔、僕の上に覆い被さって来た。
「こういう目」
グウの瞳が近すぎる。
「…グウは、僕を親とか兄弟のような…
小さい時から知ってるんだから
身内にしか見れないはずだし、
今は思春期で勘違いしてるのかも。
可愛いキスの愛情表現はたまになら…」
話してるそばからキスが落とされる。
「言ったね?たまになら愛情表現…」
…可愛いキスって言ったのに…
繰り返されるキスは自分で唇を開いた事も分からないまま、気づいた時には口内の奥、僕の舌も窮屈になる程グウの舌が入ってきていた。
こんなの嫌でも感じてしまう。
上からのグウの重さに全身で耐えながら、唇や舌はグウの動きに応えてしまう。
イヤイヤイヤ、これ以上は危険。
これ以上進んだら気まずくなるだけ。
どうにか唇を離し、身体を剥がす。
「これは勘違い。これ以上したら……」
「これ以上したら…?仁兄、怒らないでよ。
たまにならいいんでしょ?
…っとそろそろ行こうかなー。服借りるね」
出していたTシャツ短パンを着て…行くのか。
「……あ、下着は返さなくていいから。
どうせ履いてなかった貰い物だし」
「いいの?じゃあ貰いまーす。ご馳走さま!
帰り寄ると思う!あ、ウェット、帰りでいい?」
「ああ、いいよ」
「じゃあねっ!」
「ああ、じゃっ…」
最後の会話は会話のキャッチボールの間も無く、あっという間に消えていったグウ。
何年も会わずにいたからか、未来は期待してないからか、グウの背中を思い出してまた夕方に会えるって分かってるのにもうこんなに寂しくなる。
この寂しさは、どうしても…ほんの少し…一緒にいれる未来を望んでしまうから。
{少し危険な波。上級者は楽しめるかも。}
〜〜〜6年前〜〜〜
「今日はぜんぜん波良くなかったね」
「ああ、そんなに高くなかったね。
けど、グウと僕だけで入るのは
あれくらいじゃないと…。
…ちょっと、脚見せて?ぶつけただろ」
夏休み前の、高校へ行く前の時間。グウは小学校へ行く前の時間。いつも週に半分くらいは2人で海に入る。
海に近いグウの家の庭先でウェットを脱ぎ、海水、砂を流す。シャワーはなく、容器に溜めた水を頭からかける。グウにも頭からかける。そしてさっきボードがぶつかったであろうスネを見ると、血が出ていた。
「…ぶつけたら言えよ…傷深かったら
次、海入るのも考えなきゃだろ…?」
僕はウェットを腰まで脱いでしゃがみ、ウェットを全部脱いでタオルを腰に巻いたグウの脚を自分の膝に乗せながら傷を良く見る。
「これくらい平気」
グウは怪我を恐れない。
僕より小さい身体なのに、既に波乗りの技術は変わらない。技への追求心…ほんと好きな事にはとことんの性格。そりゃ上手くなるはず。
負けず嫌いの僕の、更に上をいく負けず嫌い。
「平気なのは分かるけど、言えってば。ふふっ…
怒ってないし…お前自分じゃ消毒も何もしないだろ?
だから治りが悪いんだよ…先にシャワー浴びてて。
救急箱借りとくから」
庭先でウェットを脱いで汚れを流したら、どちらが先とか決まってないけどシャワーを浴びる。同時に入る事も。
先に頭を洗ってるグウの隣で、シャワーを借りる。
毎回の事だから僕用ボディソープ、シャンプーリンスは置かせて貰っている。
「…寒っ!こんな水みたいので…」
設定温度の好みが違う。
僕は少し熱めが良いけどグウは冷たいのが良いらしい。
グウが温度を上げたけど、直ぐには熱くならず…
「洗い終わった?流すよ?」
熱くなるまで出してるシャワーで、そのままグウのシャンプーを流してやる。
…至る所に傷がある。サーフィンで作ったケガ。
顔を切った時は焦ったな…頬の傷跡、小さくて分からないくらいだけど、指でそっとさする。
「仁兄、気にしすぎ…
頬なんて、あっという間に治ったし
傷跡なんて…仁兄しか気づかないし」
気にしすぎにもなる。
5個も上で、2人で波乗りしててケガをさせたら全部僕の責任だ。
僕の手が掴まれて、抗議…じゃなくて僕のフォローをするグウ。優しいし、僕の気持ちが分かるからか、頭の回転が早いからか…?
僕にとってそんなグウがどれ程心地良いか…
「去年だよね、気にしすぎじゃないよ。
こんな可愛い顔が、顔面血だらけになってたら
こっちは血の気が引いたよ…」
手は掴まれたまま振りほどかずに、大事にさすった頬を
今度はつねる。もう片方はシャワーを浴びせながら。
されるがまま…気持ち良さそうに目を瞑るグウ。
閉じた目元も可愛いし、バランス良い鼻、フェイスラインは少しふっくら。
まだ子供だからかな…少し開いた口、口元も可愛い。
そして見た目より上をいく可愛い性格。
衝動的にそっと、軽くキスをしてしまった。
けどこの衝動は今始まったわけじゃない。
何年も前から…グウは今更ビックリもしない。
「シャワー終わり。身体拭いたら教えて?」
グウをバスルームから出し、我慢していた溜息を思い切り出してしまう。
何年も僕は何をしてるんだろう。
お互い裸で、流石に唇へキスはマズイだろ。
もうやめなきゃ。親が子供へキスする様な気持ちじゃ無くなってる気がする。
おかしな思考をグチャグチャに、急いでシャンプーと一緒に頭を洗う。全部ひっくるめて、無かった事にして洗い流すんだ。
「仁にーい…拭いたよー」
大丈夫…やましい気持ちは洗い流した。
「タオルとって?」
ドアの隙間から手を伸ばし、受け取ったタオルで大雑把に全身拭いて洗面所にタオルを巻いた状態で出る。
下着だけのグウ。
まだ子供なのに、どんどん成長する身体。見慣れた身体なのに何故かどうしても意識してしまう。
「血、止まってるかな…」
早く手当てして、お互い服を着なきゃ。
また僕の膝上にグウの脚を乗せ、消毒して絆創膏を貼ったら逃げるようにバスルームに戻った。
シャワーを流しながら、今までに何度、バレないように吐き出しただろう…
学校の帰り道、友達と寄り道したりして高校生最初の夏を楽しもうとは思っていた。
「仁君は好きな子いないの?
学校の子とか…中学ではどうだった?」
何となく気の合う同級生男女6人で、ファーストフード店でポテトを食べつつ涼んでいた。
その中でも気さくに話しかけてくる女の子はいつもニコニコしてて、僕も気を使わずに話せた。
「…いないねー。今も、前も」
「へー、草食なのかな?
モテるだろうし、落ち着いてるから
長く付き合ってる彼女がいそうなのに」
「落ち着いてないよー」
「いや、落ち着いてるよ。
女子と話す時テンション低いもん。
慣れか落ち着きか…落ち着きでしょ?」
「…そういうキミも落ち着いてるよ?」
「え?私はドキドキしてるよ?
ただ仁君と…合わせれてるのかも」
照れたようにクシャッて笑う彼女。
一瞬、グウの笑顔に似てるな…って思った…。
am5:00 〜〜現在〜〜
あの一瞬のせいで、僕は彼女からの告白を受け入れてしまったのかもしれない。
ひと通り、愛せると思った。1年くらい付き合った。
好きは好きなのに、どうしてもグウと比べてしまう自分に、自分で疲れてしまった。
大学に入ってから海に入る時間が無くなり、グウと過ごす時間が減った。好きな人は出来なかったけれど、好かれて交際を申し込まれた相手にどこかグウに似てる所を探す…
たまに会うグウを、どうしても彼女より愛おしく思ってしまう。
彼女じゃなくて、次第に彼氏と…付き合ってもそうだった。けどそんなんじゃ相手も僕も疲れるだけ。
グウと会わずにいたら、愛してくれる人を愛せるかと思ったけど、気持ちは変わらなかった。
重症だから、諦める事にした。
幸せになれなくても、グウの近くで…海の近くで…癒されていたい。
キス。
愛情表現…されると嬉しいもんだな。
店で一方的にされたキス、牛丼を食べた帰りに衝動的にしてしまったキスや昔のことを思い出し、海辺で心地良い潮風と波の音を感じながら、何人かいるサーファーの中からグウを探す。
本気なはずは無いから期待はしない。
家族、兄弟、それ以上の気持ちだとしても、僕のようなドロドロした愛情とは絶対違う。
期待はしないけど、居心地が良いからまた近くにいたいんだ。例え今年だけでも。
砂浜に座る僕に、グウが沖からこっちに手を振ってきた。僕も振り返す。
良い波が来た。タイミング良く乗り、加速も上手い。波のトップで一回転。…上手。
そのまま波と一緒に浜辺に来たグウ。
「今日はまぁまぁの波のだから
仁兄も入れば良かったのに!」
「…今度ね、久しぶりすぎて1日体力持たなそうだし。
グウ、アップスダウン(加速)安定したし速くなったね」
「まぁね…4年?5年前とかに比べたらね」
「…大会で見てるよ?
ネットとか…大会見に行った事もあるし」
「…そうなの??そういう時は言ってよ?!
全くサーフィンに興味無くなったのかと……俺にも…」
「…そのうち海入ろうと思ってるし…
…グウに教えれる事は無くなったけど、
上手くなってるのは分かるから褒める事は出来るかな。
…大会の度に応援してたよ」
「仁兄に褒めて欲しい。
俺はそうやって伸びてきたんだって実感してる。
小さい頃…波の怖さよりも、
上手になりたくて…褒められたくて…
だから出来ない技にも何度も挑戦できた」
目線を合わせず…照れてるのかな。砂を動かす足元を見ながら話してる。
「グウが負けず嫌いだからだよ」
「うん、負けず嫌いだけどね。ふふっ」
クシャッとした笑顔。
この何年も…思い出したくても、思い出そうとしても、そういう時は出来ないもので…余計会いたい気持ちは大きくなった。
懐かしい…大好きな笑顔。
顔つきが大人っぽくなっても、変わらないものなんだな。
「…朝ごはんいる?
新メニューの為にサンドウィッチを何個か
試作してみたんだけど、食べる?」
「うん。食べたい!
今食べたい!チョーお腹ペコペコ!」
「あ、じゃあ持ってくるね?
まだ海入るでしょ?…こんな波いいし…」
「…今日はいつもより早く入ったし…
ダメだ!サンドウィッチって聞いたら…
お腹がペコペコで力が出ない……」
「…じゃあ、僕のパンで元気100%ー!!」
あ○○ーんまーーん♪!
グウもふざけて歌いながら、僕と一緒に歩き出す。
途中で自転車をひいたり、2人乗りしながら進んで店に着いた。
「持ってくるから待ってて」
「え?一緒に食べようよ」
「…お前ウェットじゃん…」
「すぐ着替えるから!
ここで水使わせて貰って、
シャワーも貸して?で、服も貸して?
今日学校始まるのいつもより遅いんだ。
…お願い!ゆっくりしてっていいでしょ?」
「そうなの?…まぁシャワーも服も…
上で食べてっても良いけど…」
Tシャツ短パン、下着は新品を出して、バスルームのドアの所に置いた。1人で住むには十分だけど、脱衣室なんて無いし至る所が狭い。ご飯を食べるスペースでさえ、2人でとなるときつい。書類で山になった机や床を片付けてやっと。
「仁にーい。タオル貸して?」
タオルを忘れていた。急いでタオルをグウに渡したけど、グウの裸が目に入って何も言葉を出せなかった。
…気まずい。
「…?ありがと。…仁兄?」
「ん?あ、何飲む?ジュース?無いな…」
「なんでもいいよ?ベストは牛乳!」
「…ああ、好きだよね。あるある」
ボクサーブリーフを履いただけで、髪にタオルを乗せ、ガシガシ拭いてる。さっきよりは目線に困らなくなったけど…
背も僕と同じくらいになってから、大学に入って会う時間があまり無くなり、たまに会えたグウは僕よりも男だった。
グウの体にこんなにドキドキしていて、そんな事に気づかされる。
自分でグウを特別な存在だと思いながら、昔からドロドロの愛情を持ち、男らしくなるグウに抱かれる事を想像する…
親心、兄弟のような愛情の仮面を、これからもずっと外さずに…バレないようにしないと…
「うっまい」
お腹ペコペコなだけあってすごい勢いで口の中に詰め込む。
「どれをメニューにするか決めるから、
良く味わってね?」
「んーー?とりあえずコレうまい。
野菜はもっと少なくてもいいけど」
「……もっと野菜入れるつもり。
オシャレにヘルシーにするから…」
「ふーん、オシャレにヘルシー。
俺に聞くべきじゃないね。仁兄食べないの?」
「ああ、食べる食べる」
またうっかりグウの上半身に目が行ってしまい、引き締まった筋肉が沢山付いている事にビックリしたけど、口には出さなかった。
「あーーお腹いっぱい。ごちそーさまー」
無防備に横に寝転ぶグウ。
「食べて直ぐ横になるなよ…」
「無理ーー。お腹いっぱいだし、眠いし…
この海の後の気持ち良いダルさ…わかるでしょ…
仁兄もココおいでよ。少し休憩…」
クッションを枕に寝そべっったまま、こっちを見ずに手招きして僕を呼ぶ。
まぁいいか。
添い寝くらいじゃ仮面は取れない。
並んで横になり、僕は窓からの風を感じて、目を瞑る。
「仁兄」
「なに」
「…今、付き合ってる人いるの?
昨日の人と付き合ったりとか…」
「!…付き合ってないよ。
大学の後輩でこれから仕事を……
っていうか、何で男と…って思うんだよ…」
「…ごめん。あり得そうと思って…
仁兄は男にもこういう目で
見られてるんだろうなって…」
「こういう目って…っ」
何だよ、と聞こうしたのに…目の前にグウの顔、僕の上に覆い被さって来た。
「こういう目」
グウの瞳が近すぎる。
「…グウは、僕を親とか兄弟のような…
小さい時から知ってるんだから
身内にしか見れないはずだし、
今は思春期で勘違いしてるのかも。
可愛いキスの愛情表現はたまになら…」
話してるそばからキスが落とされる。
「言ったね?たまになら愛情表現…」
…可愛いキスって言ったのに…
繰り返されるキスは自分で唇を開いた事も分からないまま、気づいた時には口内の奥、僕の舌も窮屈になる程グウの舌が入ってきていた。
こんなの嫌でも感じてしまう。
上からのグウの重さに全身で耐えながら、唇や舌はグウの動きに応えてしまう。
イヤイヤイヤ、これ以上は危険。
これ以上進んだら気まずくなるだけ。
どうにか唇を離し、身体を剥がす。
「これは勘違い。これ以上したら……」
「これ以上したら…?仁兄、怒らないでよ。
たまにならいいんでしょ?
…っとそろそろ行こうかなー。服借りるね」
出していたTシャツ短パンを着て…行くのか。
「……あ、下着は返さなくていいから。
どうせ履いてなかった貰い物だし」
「いいの?じゃあ貰いまーす。ご馳走さま!
帰り寄ると思う!あ、ウェット、帰りでいい?」
「ああ、いいよ」
「じゃあねっ!」
「ああ、じゃっ…」
最後の会話は会話のキャッチボールの間も無く、あっという間に消えていったグウ。
何年も会わずにいたからか、未来は期待してないからか、グウの背中を思い出してまた夕方に会えるって分かってるのにもうこんなに寂しくなる。
この寂しさは、どうしても…ほんの少し…一緒にいれる未来を望んでしまうから。

