それから数ヶ月が経った。
隼人は変わらず、ちょびと二人暮らしを続けている。
朝起きてコーヒーを淹れ、軽く部屋を片付けるのがすっかり習慣になっていた。
以前のように、散らかった部屋を放置することはなくなった。

けれど時々——不思議なことが起きる。

「……あれ?」

隼人はリビングのテーブルを見つめた。
昨日の夜は確かにその上に資料を広げたまま寝落ちしたはずだったが、今はきれいに片付けられていた。
ソファのクッションの位置も整えられ、床にはホコリひとつない。

「俺、片付けたっけ……?」

記憶を辿るが、思い当たる節がない。

「気のせいか」

そうつぶやきながらも、隼人は思わず目を細める。
母が生きていたころの家が、いつもこんなふうに整えられていたことを思い出したからだ。
隼人は視線を落とし、近くで丸くなっているちょびに目を向ける。
ちょびは気持ちよさそうに伸びをしながら、静かにこちらを見上げた。

「……お前、また母さんじゃないよな?」

隼人が冗談めかしてそう言うと、ちょびは「にゃあ」と短く鳴いた。
ただの猫らしい素っ気ない返事だったが、どこか誇らしげにも聞こえる。

「まあ、いいか」

隼人はちょびを抱き上げ、窓辺に立つ。
ガラスの向こうには穏やかな朝日が広がっていた。

「今日も頑張るか」

隼人はちょびの頭を軽く撫でると、そのままゆっくりとリビングへと戻っていった。