【柱】帝都・皇宮・朧月皇子の私室・夜

【ト書き】
豪奢な金の灯火がゆらめき、静かな夜の空気に線香の香りが漂う。
皇子、再び胸奥に影が戻ってきていた。

朧月皇子(心の声)「……また……胸が……苦しい……。あれほど軽かったのに……」

【ト書き】
皇子は胸を押さえ、乱れた呼吸を抑えようと深く腰をおろす。

朧月皇子(心の声)「雪沙と離れて数日……また影が戻っている……?」

【ト書き】
ズキン、と鋭い痛みが走り、皇子は短く息を呑む。

朧月皇子「っ……は……っ……」

【ト書き】
その苦しげな息を聞きつけたように、静かに扉が開く。
複数の宮廷医師が緊張した面持ちで入室し、床に膝をついた。

【柱】帝都・皇宮・朧月皇子の私室・夜(宮廷医師の診察)

医師長「皇子……お加減はいかがでございますか……?」

朧月皇子(苦痛に濡れた声で)「……よいわけがない……。また胸が焼ける……」

【ト書き】
医師たちは脈拍を測り、瞳孔を確認し、脈の乱れに顔を曇らせる。
医師長が深く息を吐き、苦渋の表情を浮かべながら口を開く。

医師長「……皇子。『月影の呪い』の進行は……残念ながら止まっておりませぬ。むしろ……先日の発作以降、影はさらに深く……」

朧月皇子(皮肉めいた笑みで)「その影は……あとどれほどで俺の命を削る?」

医師長(視線を落とし)「……余命は……長くはございません。持って……一年……いえ……数か月の可能性が……」

【ト書き】
皇子のまつげがわずかに震えた。

朧月皇子(心の声)「……幼い頃から、いつ死んでもおかしくない、治らない、望みなしと言われ続けた……誰一人として……希望をくれた者はいなかった……」

【ト書き】
医師たちは皇子の前で深く頭を下げ、退室していく。

朧月皇子(心の声)「……雪沙の歌声だけが……影を鎮めた……。あれは……幻では……なかった……」

【柱】帝都の医務殿・(回想・朧月皇子の少年時代)

【ト書き】
薬草と湯気の匂いが混ざる医務殿。
白い壁が幼い朧月の影を映し、弱く震えて揺れていた。

医師「……皇子は生まれながらに月影の呪いがございます。治療法は……いまだに見つかっておりませぬ」

少年の朧月「……なおらないのか……?」

医師「いつ発作が起きてもおかしくありません。命は……儚いものと……お覚悟くださいませ」

【ト書き】
朧月少年は膝の上の小さな拳を握りしめた。

少年の朧月(心の声)「……いずれ死ぬなら……生きる意味なんて……どこに……」

(回想シーン終了)

【柱】皇宮・文庫殿・深夜

【ト書き】
静寂の中、蝋燭が一つだけ奥で揺れている。
皇子は書棚の間を歩き、埃の積もった古い巻物を手に取った。
巻物を広げると、銀色の文字がかすかな光を放ちながら浮かび上がる。

朧月皇子「……雪霊の血を持つ者の声、月影を払う……?」

【ト書き】
皇子の手が震える。

古文書の記述『月影の呪いは霊の影。これを鎮めるは雪霊の血の娘の歌のみ。歌は白雪をまとい、影を散らす。月を救う声は雪から生まれる』

朧月皇子(心の声)「……雪霊の血……雪沙の……あの歌……俺の影が……消えていった理由は……これだったのか……?」

【ト書き】
胸がどくん、と大きく脈打つ。
苦しさとは違う震え。

朧月皇子(心の声)「雪沙……お前が……俺の宿命を変える唯一の存在……そういうことなのか……?」

【ト書き】
皇子は巻物を胸に抱き、窓辺へと歩み寄った。
外では雪が静かに降り続けている。

朧月皇子(心の声)「……もう一度……あの歌を聞きたい……お前の声を……あの温もりを……会いたい……雪沙……」

【ト書き】
降り積もる雪は世界を静かに覆っていく。