【柱】北の国・山荘・夜(吹雪・1話の続き)
【ト書き】
吹雪の唸りは壁を揺らし、焚き火の光はそのたびに揺らぐ。
雪沙は震える指で、青年・朧月皇子の手をそっと包み込む。
雪沙(心の声)「……こんなに冷たい……。それでも……まだ、生きてる……。助けられる……?本当に……?」
【ト書き】
月影の呪いが静まった直後、雪沙の喉がわずかに熱を帯びる。
雪沙(心の声)「……また、声が……。どうして……?彼の手に触れていると……呪符の痛みが……薄くなる……?」
【ト書き】
雪沙の手に包まれた瞬間から、皇子の眉間の皺がゆるみ、呼吸が穏やかに整っていく。
雪沙(心の声)「……落ち着いてる……?まさか私が……なにか……?」
【ト書き】
雪沙は驚いて手を離しかけ——皇子が弱い声で制した。
朧月皇子(弱々しく、かすれた声)「……待て……そのまま……離すな……」
雪沙(心の声)「お願い……みたいに聞こえる……。触れているだけで……楽になるなんて……そんなこと……」
【ト書き】
皇子の胸の奥で、黒い影のような気の揺らぎがまだ残っている。
完全には消えていない。
雪沙(心の声)「……歌……。おばあ様が……昔、言っていた……。あなたの子守歌は命を温めるって……」
【ト書き】
絞り出すように、雪沙は声を出す。
震える唇で歌う。
雪沙(小さな声で)「……ゆきの……うた……。……ねむれ……しずかに……」
【ト書き】
たどたどしく、かすれ、途切れがちな歌声。
皇子の胸にまとわりついていた黒い影が、ゆっくりと薄れていく。
朧月皇子(細い息で)「……ぁ……不思議……だ……。痛みが……遠ざかる……」
【ト書き】
皇子の表情がゆるみ、呼吸が穏やかになる。
雪沙、少し戸惑ったような表情になる。
雪沙(心の声)「……本当に……効いてる……?私の……歌で……?そんなこと……本当に……」
朧月皇子(まどろみの中、微笑むように)「……その声……あたたかい……。月の光みたいだ……静かで……優しい……」
【ト書き】
雪沙、息を呑む。
雪沙(心の声)「こんなふうに、誰かに求められたこと……。一度もなかった……」
【ト書き】
皇子はそっと雪沙の手を握り返す。
雪沙(心の声)「どうして……まだ出会ったばかりなのに、この人を助けたいって……」
【ト書き】
歌はゆっくりと途切れ、皇子は深い眠りに落ちていく。
影はどこにも残っていない。
雪沙(心の声)「……私が……誰かを癒せるなんて……思ってもみなかった。でも……もし……私の歌で……この人が生きられるなら……」
【ト書き】
そっと皇子の額にかかった髪を払う。
雪沙(心の声)「どうして胸が……こんなに痛いの……?」
【柱】北の国・山荘・朝(翌朝・吹雪明け)
【ト書き】
吹き荒れていた吹雪は嘘のように止み、澄んだ朝の光が山荘の窓を照らし、白銀の大地を反射してきらめいていた。
焚き火は小さく赤い残り火を抱いている。
朧月皇子は簡易寝具の上でゆっくりと身を起こす。
肩を上下させる動きも軽くなり、色を失っていた顔には血が戻り、昨日とは別人に見えるほどだ。
朧月皇子「……ここまで回復するとは……。まるで……夢でも見ていたようだ……」
【ト書き】
雪沙は慌てて駆け寄り、皇子の額や胸元にそっと手を当て、熱や呼吸を確かめる。
声を出せないため、「まだ休んで」と両手を前に出し、眉を下げて身振りで伝える。
朧月皇子(微笑しながら)「心配するな……。お前の手は、驚くほど温かいな。……もう、大丈夫だ。お前が……救ってくれた」
【ト書き】
雪沙はその言葉に、肩を震わせて俯く。
頬がかすかに赤く染まり、指先が胸元でぎゅっと握られていた。
雪沙(心の声)「……救ったなんて……初めて……。本当に……生きてる……。よかった……」
【ト書き】
外では折れた木々が軋み、雪鳥たちが薄明かりの中で羽ばたいている。
朧月皇子「……そろそろ都へ戻らねばならぬ。ここに長くいては、お前に迷惑をかけてしまうからな」
【ト書き】
その言葉を聞いた瞬間、雪沙の手が思わず皇子の袖をつかんだ。
自分でも驚くほどの強い力で。
雪沙(心の声)「……行ってしまうの……?もう……二度と会えないの……?」
【ト書き】
すぐに雪沙ははっとして手を離し、ぎこちなく頭を下げる。
朧月皇子「……強いのだな、お前は。泣きもせず……引き止めもせず……」
雪沙(心の声)「……泣いたら……弱い人だと思われる……?違う……泣きたくても……声が出ないだけ……」
【ト書き】
皇子はゆっくりと立ち上がり、雪沙を見つめる。
朧月皇子「最後に……ひとつだけ。……なぜ声が出ない?生まれつき話せぬのか……それとも……誰かが……?」
【ト書き】
雪沙の身体が硬直し、息を吞む。
やがて、意を決したように雪沙は紙と炭筆を握りしめ、震える手でゆっくり文字を書く。
雪沙(紙に書く)『声は出せません。喉を封じられました』
【ト書き】
雪沙、喉に貼られた呪符を指す。
朧月皇子(誤魔化さずに問い返す声で)「封じられた……?誰にだ……?」
【ト書き】
雪沙は唇を噛み、顔を上げる。
続けて書く。
雪沙(紙に書く)
『生まれつき、私の声に雪霊が反応します。だから、義母上に恐れられ封じられました』
【ト書き】
皇子は紙を静かに手に取り、息をひそめるように読み終える。
朧月皇子(驚きに揺れる声で)「……雪霊……?お前は……精霊を呼ぶのか……?」
【ト書き】
雪沙はゆっくりと頷いた。
【ト書き】
吹雪の唸りは壁を揺らし、焚き火の光はそのたびに揺らぐ。
雪沙は震える指で、青年・朧月皇子の手をそっと包み込む。
雪沙(心の声)「……こんなに冷たい……。それでも……まだ、生きてる……。助けられる……?本当に……?」
【ト書き】
月影の呪いが静まった直後、雪沙の喉がわずかに熱を帯びる。
雪沙(心の声)「……また、声が……。どうして……?彼の手に触れていると……呪符の痛みが……薄くなる……?」
【ト書き】
雪沙の手に包まれた瞬間から、皇子の眉間の皺がゆるみ、呼吸が穏やかに整っていく。
雪沙(心の声)「……落ち着いてる……?まさか私が……なにか……?」
【ト書き】
雪沙は驚いて手を離しかけ——皇子が弱い声で制した。
朧月皇子(弱々しく、かすれた声)「……待て……そのまま……離すな……」
雪沙(心の声)「お願い……みたいに聞こえる……。触れているだけで……楽になるなんて……そんなこと……」
【ト書き】
皇子の胸の奥で、黒い影のような気の揺らぎがまだ残っている。
完全には消えていない。
雪沙(心の声)「……歌……。おばあ様が……昔、言っていた……。あなたの子守歌は命を温めるって……」
【ト書き】
絞り出すように、雪沙は声を出す。
震える唇で歌う。
雪沙(小さな声で)「……ゆきの……うた……。……ねむれ……しずかに……」
【ト書き】
たどたどしく、かすれ、途切れがちな歌声。
皇子の胸にまとわりついていた黒い影が、ゆっくりと薄れていく。
朧月皇子(細い息で)「……ぁ……不思議……だ……。痛みが……遠ざかる……」
【ト書き】
皇子の表情がゆるみ、呼吸が穏やかになる。
雪沙、少し戸惑ったような表情になる。
雪沙(心の声)「……本当に……効いてる……?私の……歌で……?そんなこと……本当に……」
朧月皇子(まどろみの中、微笑むように)「……その声……あたたかい……。月の光みたいだ……静かで……優しい……」
【ト書き】
雪沙、息を呑む。
雪沙(心の声)「こんなふうに、誰かに求められたこと……。一度もなかった……」
【ト書き】
皇子はそっと雪沙の手を握り返す。
雪沙(心の声)「どうして……まだ出会ったばかりなのに、この人を助けたいって……」
【ト書き】
歌はゆっくりと途切れ、皇子は深い眠りに落ちていく。
影はどこにも残っていない。
雪沙(心の声)「……私が……誰かを癒せるなんて……思ってもみなかった。でも……もし……私の歌で……この人が生きられるなら……」
【ト書き】
そっと皇子の額にかかった髪を払う。
雪沙(心の声)「どうして胸が……こんなに痛いの……?」
【柱】北の国・山荘・朝(翌朝・吹雪明け)
【ト書き】
吹き荒れていた吹雪は嘘のように止み、澄んだ朝の光が山荘の窓を照らし、白銀の大地を反射してきらめいていた。
焚き火は小さく赤い残り火を抱いている。
朧月皇子は簡易寝具の上でゆっくりと身を起こす。
肩を上下させる動きも軽くなり、色を失っていた顔には血が戻り、昨日とは別人に見えるほどだ。
朧月皇子「……ここまで回復するとは……。まるで……夢でも見ていたようだ……」
【ト書き】
雪沙は慌てて駆け寄り、皇子の額や胸元にそっと手を当て、熱や呼吸を確かめる。
声を出せないため、「まだ休んで」と両手を前に出し、眉を下げて身振りで伝える。
朧月皇子(微笑しながら)「心配するな……。お前の手は、驚くほど温かいな。……もう、大丈夫だ。お前が……救ってくれた」
【ト書き】
雪沙はその言葉に、肩を震わせて俯く。
頬がかすかに赤く染まり、指先が胸元でぎゅっと握られていた。
雪沙(心の声)「……救ったなんて……初めて……。本当に……生きてる……。よかった……」
【ト書き】
外では折れた木々が軋み、雪鳥たちが薄明かりの中で羽ばたいている。
朧月皇子「……そろそろ都へ戻らねばならぬ。ここに長くいては、お前に迷惑をかけてしまうからな」
【ト書き】
その言葉を聞いた瞬間、雪沙の手が思わず皇子の袖をつかんだ。
自分でも驚くほどの強い力で。
雪沙(心の声)「……行ってしまうの……?もう……二度と会えないの……?」
【ト書き】
すぐに雪沙ははっとして手を離し、ぎこちなく頭を下げる。
朧月皇子「……強いのだな、お前は。泣きもせず……引き止めもせず……」
雪沙(心の声)「……泣いたら……弱い人だと思われる……?違う……泣きたくても……声が出ないだけ……」
【ト書き】
皇子はゆっくりと立ち上がり、雪沙を見つめる。
朧月皇子「最後に……ひとつだけ。……なぜ声が出ない?生まれつき話せぬのか……それとも……誰かが……?」
【ト書き】
雪沙の身体が硬直し、息を吞む。
やがて、意を決したように雪沙は紙と炭筆を握りしめ、震える手でゆっくり文字を書く。
雪沙(紙に書く)『声は出せません。喉を封じられました』
【ト書き】
雪沙、喉に貼られた呪符を指す。
朧月皇子(誤魔化さずに問い返す声で)「封じられた……?誰にだ……?」
【ト書き】
雪沙は唇を噛み、顔を上げる。
続けて書く。
雪沙(紙に書く)
『生まれつき、私の声に雪霊が反応します。だから、義母上に恐れられ封じられました』
【ト書き】
皇子は紙を静かに手に取り、息をひそめるように読み終える。
朧月皇子(驚きに揺れる声で)「……雪霊……?お前は……精霊を呼ぶのか……?」
【ト書き】
雪沙はゆっくりと頷いた。



