スポットライトに照らされた少女…

年齢は13歳くらい…

ライブを開始したのは20時だったので、

今は22時くらいだろう。

こんな時間になぜ一人?



僕はこの状況に戸惑いを感じながらも

目の前の少女に声をかけた

「大丈夫?1人?」

少女は頷き

「ここに来れば伝えたかった思いを

相手に届けられるって聞いた」

と小さな声で話した。

僕は、この状況もまだ理解できていないのに

よく分からない事を言われ目を閉じ少し考えていた。

すると少女は続けて

「黒い帽子の眼鏡をかけたお兄さんが…ここに行けば大丈夫って言ってた…」

と言った。



僕は、黒い帽子と眼鏡の男性に心当たりがあった

それは…僕の兄だ。

兄は、僕より5歳年上でバンドのボーカルで

ステージの時の服装がいつもこれだった。



兄は

地元ではちょっとした有名人だった。

家では優しく頼りになり

みんなから好かれ

バンドの時はキラキラしていてカッコいい

そんな兄に憧れ

音楽の世界に興味を持つようになった。

だが、兄は僕が19歳の時に

いきなり居なくなってしまった。

生きているのか、死んでしまったのか

なんで消えてしまったのか

理由は全く分からない…。

なんで…会いたいよ…兄貴…

僕は兄のことを思い出し

涙が溢れていた。



すると…

誰かが僕の頭を優しく撫でてくれている感覚が…

目を開けてみるとさっきの少女だった。

僕は「ありがとう。驚かせてごめんね。」と伝えた。

兄が関係している事は間違いないこの状況で

自分が少女のために出来ることは何か…

まだ、分からないけれど…

とにかく、少女の話を聞いてみることにした。





「名前、聞いてもいい?」と僕が聞くと

少女は「瑠珠」と答えてくれた。



「瑠珠ちゃんは、伝えたかった想いを相手に伝えたいから僕の所に来てくれたって言ってたよね?詳しく聞いてもいいかな?」

「じゃあ、話すね。」そう言って彼女は話してくれた。



私は、瑠珠13歳。

パパとママと3歳年下の弟の四人家族。

パパもママもお仕事で毎日帰りが遅くって

弟と一緒にお留守番する事が多かったけど、

寂しいなんて思った事は無くって、

休日に家族でお出かけしたり

楽しい事が沢山あったから、私は皆が大好きなの。

それでね…



そこから瑠珠が少し暗い表情になった。



夕飯の準備は、私が担当していたから、

家族皆が大好きなコロッケを夕食に用意して

待ってようって思って…

準備をしていたの…そしたら…そしたらね…

つまみ食いをしようとした弟の洋服の袖が

油鍋に引っかかっちゃって、

私は咄嗟に弟に覆いかぶさったの…

そこからは…

何も覚えて居ないんだ…。



瑠珠は涙を流しながらそう話してくれた。

そして続けて



きっと、弟は自分のせいでこうなってしまったんだと

ずっと悩んでいると思うの。だから、お姉ちゃんは弟を守るのが当然だから、気にしないで、毎日笑って過ごして欲しいって伝えたいの…無理かな…



僕は瑠珠ちゃんに大丈夫。きっと伝えると

根拠もないのに即答していた。

でも…何が出来るだろうか…

僕に出来るのは…

音楽に乗せてメッセージを伝えること…

どうしたら……悩みながら考えていると…



瑠珠ちゃんがステージの中央を指差した。



そこには、

さっき切れてしまったはずの弦が元通りの

いつもの僕のギターが置いてあった…。