(3回……)
(3回だけやり直せる……)
できる限りぼんやりと過ごすように決めている家の中で、より一層考え込むようになってしまった。もちろん黒猫に出会ってしまったから。
(……次はいつ来るんだろう)
わたしは黒猫からもっと詳しく話を聞きたいと思うようになっていた。「やり直せる」ってどういうことなのか?どのようにやり直すのか?とか。
「……おい……飯はまだなのか?」
仕事に出かける前のお父さんが、新聞を見つめたままお母さんに無言で語りかける。
「仕方無いでしょ。洗濯だってあるんだから……」
「全く……使えないな……早くしろよ?」
「……」
弟が反抗的な態度を取り始めたことも気になるけれど……お父さんとお母さんの仲がもの凄く険悪な雰囲気になっていることも、最近わたしは心配だった。
(昔は……よく笑ってたのにな)
わたしの記憶の中で、お父さんとお母さんが笑っていたのは……小学生だった頃まで。それ以降は事務的な会話をしているところしか見たことがない。ご飯の時は、いつだってピリピリとした雰囲気になる。
ガタンと椅子を引き、お父さんが立ち上がった。
「……仕事行くの?」
わたしはお父さんの顔色を伺いながら、恐る恐る聞いてみる。
「あぁ……」
「……朝ごはんは?」
「……」
「食べないの?」
「……途中でパンでも買うよ」
「……そう……」
わたしやお母さんに視線を向けるでもなく、鞄とスーツを手に取り、玄関へと向かっていった。お母さんは無言で台所でご飯を作り続けている。
(何よ……この雰囲気……)
「これじゃ、まるで学校での雰囲気と変わらないじゃない……」落ち着くはずの家の中でも、わたしはいつも緊張している。……昔のように、楽しかった頃に戻りたい。そんなことを想いながら、わたしは朝ごはんが出てくるのを待った。
「じゃ、始めるぞー。教科書の34ページな」
先生の一声は落ち着く。黒板だけを見ていれば良いから。わたしの悪口を言っているんじゃないか?とか、ヒソヒソと噂話をしているんじゃないか?とか……色々と心配をする必要がない。
(早く黒猫……来ないかなぁ)
日曜の夜の後から、わたしは「黒猫に早く会いたい」と思うようになっていた。3回だけやり直すことができると言われて、前向きに考えていたのに……帰ってしまったから。
(……もったいぶって)
(早く来てよね……)
ちらりと横目で教室の窓を見てみるけれど、黒猫はいるはずもなかった。
心待ちにしていた時は、火曜の夜に訪れた。
「やあ」
部屋の中に入ってくる、少しひんやりとした秋風と共にやって来た。待ちに待った黒猫。
月曜日は雨が降っていた。屋根をリズミカルに叩く雨音が、気付けばわたしを夢の中に誘って……はっと目を覚ますと、もう朝だった。もしかすると寝ている間に来ていたのかも知れないけれど。
「あ! 来たんだ」
「来たよ」
「昨日は? 何で来なかったの」
「雨だったじゃん」
「……雨の時は来ないの?」
「僕は、水が苦手なんだよ」
そう言うと日曜日と同じように、わたしのベッドへと飛び移った。
「さて……具体的な話をしないとね」
「そうよ。教えてよ」
「いいよ」
黒猫はわたしに向かって秘密を教えてくれた――
(3回だけやり直せる……)
できる限りぼんやりと過ごすように決めている家の中で、より一層考え込むようになってしまった。もちろん黒猫に出会ってしまったから。
(……次はいつ来るんだろう)
わたしは黒猫からもっと詳しく話を聞きたいと思うようになっていた。「やり直せる」ってどういうことなのか?どのようにやり直すのか?とか。
「……おい……飯はまだなのか?」
仕事に出かける前のお父さんが、新聞を見つめたままお母さんに無言で語りかける。
「仕方無いでしょ。洗濯だってあるんだから……」
「全く……使えないな……早くしろよ?」
「……」
弟が反抗的な態度を取り始めたことも気になるけれど……お父さんとお母さんの仲がもの凄く険悪な雰囲気になっていることも、最近わたしは心配だった。
(昔は……よく笑ってたのにな)
わたしの記憶の中で、お父さんとお母さんが笑っていたのは……小学生だった頃まで。それ以降は事務的な会話をしているところしか見たことがない。ご飯の時は、いつだってピリピリとした雰囲気になる。
ガタンと椅子を引き、お父さんが立ち上がった。
「……仕事行くの?」
わたしはお父さんの顔色を伺いながら、恐る恐る聞いてみる。
「あぁ……」
「……朝ごはんは?」
「……」
「食べないの?」
「……途中でパンでも買うよ」
「……そう……」
わたしやお母さんに視線を向けるでもなく、鞄とスーツを手に取り、玄関へと向かっていった。お母さんは無言で台所でご飯を作り続けている。
(何よ……この雰囲気……)
「これじゃ、まるで学校での雰囲気と変わらないじゃない……」落ち着くはずの家の中でも、わたしはいつも緊張している。……昔のように、楽しかった頃に戻りたい。そんなことを想いながら、わたしは朝ごはんが出てくるのを待った。
「じゃ、始めるぞー。教科書の34ページな」
先生の一声は落ち着く。黒板だけを見ていれば良いから。わたしの悪口を言っているんじゃないか?とか、ヒソヒソと噂話をしているんじゃないか?とか……色々と心配をする必要がない。
(早く黒猫……来ないかなぁ)
日曜の夜の後から、わたしは「黒猫に早く会いたい」と思うようになっていた。3回だけやり直すことができると言われて、前向きに考えていたのに……帰ってしまったから。
(……もったいぶって)
(早く来てよね……)
ちらりと横目で教室の窓を見てみるけれど、黒猫はいるはずもなかった。
心待ちにしていた時は、火曜の夜に訪れた。
「やあ」
部屋の中に入ってくる、少しひんやりとした秋風と共にやって来た。待ちに待った黒猫。
月曜日は雨が降っていた。屋根をリズミカルに叩く雨音が、気付けばわたしを夢の中に誘って……はっと目を覚ますと、もう朝だった。もしかすると寝ている間に来ていたのかも知れないけれど。
「あ! 来たんだ」
「来たよ」
「昨日は? 何で来なかったの」
「雨だったじゃん」
「……雨の時は来ないの?」
「僕は、水が苦手なんだよ」
そう言うと日曜日と同じように、わたしのベッドへと飛び移った。
「さて……具体的な話をしないとね」
「そうよ。教えてよ」
「いいよ」
黒猫はわたしに向かって秘密を教えてくれた――



