(……こんな人生、やり直したい)
制服のままベッドに横になり、天井を見つめる。前はスマホを手放せなかったけれど……今はずっとカバンの中。だって、誰からもメッセージなんて来ないから。
(早く学校、卒業したいな……)
靴や荷物を隠されたり、指を刺されて馬鹿にされるところまでは行っていない。陰で笑われたり……後ろ指を刺されることはしょっちゅうだけれど、直接的でない分、まだ毎日ちゃんと学校へ行けてはいる。今後、どうなるかは……全く分からないけれど。
お母さんが帰ってくるまでぼんやりして、晩ご飯を食べる。お風呂に入って宿題をする。またぼんやりして、夜の0時に寝る。
誰からも相手にされない生活は、毎日毎日、同じ行動の繰り返し。そこに感情が入ると、辛くなるから。
(あー……上手くいかないなぁー……)
日曜日は学校へ行く必要がないから、わたしは大好き。そして夜になると……泣きたくなる。だから……わたしは感情を殺して、何も考えずに過ごす。
(んっ……?)
何か動いたような気がして、庭に視線を送る。
(あぁ。……猫ちゃんか)
最近、庭に猫がうろつくようになっていた。わたしはキーホルダーを猫にするくらい、猫が好き。うちはお父さんたちが動物は嫌い。……飼うことはできない。
(将来……いつか猫飼いたいなぁ)
庭先をふらりと散歩している猫を見ているだけで、癒される。それに時間も潰せる。
(猫に生まれ変わるのも……良いよなぁ)
優しい人に保護でもしてもらうことができれば……毎日楽しく、安心して暮らすことができるんだろうなぁ……と羨ましく思う。こんな嫌な思いをしながら、人生を送る必要がないなんて……心の底から羨ましい。
来生があるのかどうかは分からないけれど、もしあるのなら……一度は猫に生まれ変わりたい。
(……さてと、宿題でもやるかぁ)
くるりと机の方に向きを変えて、積まれた本の中から数学の教科書を探す。子供の頃から本を積み上げるのは、わたしのクセになっていた。
(……さて)
ノートを開いて、シャープペンをカチリと押した時のことだった。
「やあ」
(んっ……?)
「こんばんは。香織ちゃん」
(えっ? ……誰?)
バッと後ろを振り返ると、ベランダに猫が立っている。さっきまでわたしが見ていた……庭にいた猫。夜空と一体になりそうなほどの、黒猫だった。
「うわあああ!!!」
わたしは驚きのあまり、大声を上げて椅子から転がり落ちた。
「しー! 香織ちゃん、静かに」
しゃ……しゃべってる!
猫が……しゃべってる!
「怪しいものじゃないから」
「……はぁ!?」
「だから、静かにして。ママが来ちゃうから」
「……」
黒猫は優しく微笑みながら、口元に手を当てる。……人間のように人差し指だけを口元に当てることはできていないけれど。
「どう? 少しは落ち着いた?」
「お、落ち着いた? って……何これ? 夢?」
「夢じゃないよ? 現実だよ」
黒い毛が艶々に輝いている。吸い込まれそうなほどの漆黒。頭の中が真っ白になっているわたしに、穏やかに語りかけてきた。
「はじめまして。香織ちゃん」
「あっ……どっ……どうも……」
「ははっ! 驚くよね。無理もないよ」
「あっ……う、うん」
「僕は黒猫だよ」
「う、うん」
(だよね? 見れば……分かるよ?)
「香織ちゃんとね、お話しに来たんだ」
「わっ……わたし、と?」
「うん。そう」
君の目は、夜空に輝く月のように輝き――
そして好奇に満ちていた――
わたしの人生が大きく変わったのは
この日からだった――
制服のままベッドに横になり、天井を見つめる。前はスマホを手放せなかったけれど……今はずっとカバンの中。だって、誰からもメッセージなんて来ないから。
(早く学校、卒業したいな……)
靴や荷物を隠されたり、指を刺されて馬鹿にされるところまでは行っていない。陰で笑われたり……後ろ指を刺されることはしょっちゅうだけれど、直接的でない分、まだ毎日ちゃんと学校へ行けてはいる。今後、どうなるかは……全く分からないけれど。
お母さんが帰ってくるまでぼんやりして、晩ご飯を食べる。お風呂に入って宿題をする。またぼんやりして、夜の0時に寝る。
誰からも相手にされない生活は、毎日毎日、同じ行動の繰り返し。そこに感情が入ると、辛くなるから。
(あー……上手くいかないなぁー……)
日曜日は学校へ行く必要がないから、わたしは大好き。そして夜になると……泣きたくなる。だから……わたしは感情を殺して、何も考えずに過ごす。
(んっ……?)
何か動いたような気がして、庭に視線を送る。
(あぁ。……猫ちゃんか)
最近、庭に猫がうろつくようになっていた。わたしはキーホルダーを猫にするくらい、猫が好き。うちはお父さんたちが動物は嫌い。……飼うことはできない。
(将来……いつか猫飼いたいなぁ)
庭先をふらりと散歩している猫を見ているだけで、癒される。それに時間も潰せる。
(猫に生まれ変わるのも……良いよなぁ)
優しい人に保護でもしてもらうことができれば……毎日楽しく、安心して暮らすことができるんだろうなぁ……と羨ましく思う。こんな嫌な思いをしながら、人生を送る必要がないなんて……心の底から羨ましい。
来生があるのかどうかは分からないけれど、もしあるのなら……一度は猫に生まれ変わりたい。
(……さてと、宿題でもやるかぁ)
くるりと机の方に向きを変えて、積まれた本の中から数学の教科書を探す。子供の頃から本を積み上げるのは、わたしのクセになっていた。
(……さて)
ノートを開いて、シャープペンをカチリと押した時のことだった。
「やあ」
(んっ……?)
「こんばんは。香織ちゃん」
(えっ? ……誰?)
バッと後ろを振り返ると、ベランダに猫が立っている。さっきまでわたしが見ていた……庭にいた猫。夜空と一体になりそうなほどの、黒猫だった。
「うわあああ!!!」
わたしは驚きのあまり、大声を上げて椅子から転がり落ちた。
「しー! 香織ちゃん、静かに」
しゃ……しゃべってる!
猫が……しゃべってる!
「怪しいものじゃないから」
「……はぁ!?」
「だから、静かにして。ママが来ちゃうから」
「……」
黒猫は優しく微笑みながら、口元に手を当てる。……人間のように人差し指だけを口元に当てることはできていないけれど。
「どう? 少しは落ち着いた?」
「お、落ち着いた? って……何これ? 夢?」
「夢じゃないよ? 現実だよ」
黒い毛が艶々に輝いている。吸い込まれそうなほどの漆黒。頭の中が真っ白になっているわたしに、穏やかに語りかけてきた。
「はじめまして。香織ちゃん」
「あっ……どっ……どうも……」
「ははっ! 驚くよね。無理もないよ」
「あっ……う、うん」
「僕は黒猫だよ」
「う、うん」
(だよね? 見れば……分かるよ?)
「香織ちゃんとね、お話しに来たんだ」
「わっ……わたし、と?」
「うん。そう」
君の目は、夜空に輝く月のように輝き――
そして好奇に満ちていた――
わたしの人生が大きく変わったのは
この日からだった――



