「お父さんとお母さんの時……君は何を見てきたの」
「えっ……」
「ハンバーグの時だよ」
「……」
わたしは……下を向いたまま、動けなくなってしまった。

「本来だったら……君はお母さんに、何て言ってたんだよ」
「……」
「もう、思い出してるんでしょ? ねえ」

わたしはお母さんのハンバーグが大好きだった。ある日、ハンバーグを思いっきり口に入れて噛んだ時……ガリ!!っと口の中で大きな音がして……歯が欠けてしまったことがある。きっと、作ってくれている最中に、何かが入り込んでしまっただけだと思う。

でもわたしはあまりにびっくりしてしまい、お母さんに泣きながら八つ当たりしたのだ。
「こんなマズい料理なんて……2度と食べない!」と大声で泣きわめきながら……

その後からだった。お母さんの様子がおかしくなり……お父さんの様子がおかしくなったのは。

「……分かってるよ。1回目の時に、思い出したから……」
「2回目の時もじゃない?」
黒猫は、さらに言った。

「あの時……女子トイレで、君が洋子ちゃんに言わなければ……」
「やめて!!!」
「いや。言うよ。真衣ちゃんは、君のこと……信頼してたんだ。だから好きな人のこと、言ったんだ。なにの君は……」

「もう……良いって!! 分かってるよ……」
「……そう? 分かってる?」
「何なのよ……」

心のどこかで、分かっていた。今回、砂時計を使って実際に見てきたことで……確信に変わっていた。

「健二のことだって、君だろ? 原因は」
「うん」
「何であんなこと……健二に言ったんだよ。可哀そうに」
「……うん」

あの時……スーパーで同じ学校の恵子ちゃんの前で、わたしは健二に酷いことを言うはずだったのだ。それからだった。家の中で健二が荒れ始めたのは――

「全部。ぜーんぶ。君が原因じゃないか」
「……」
「なのに、君ときたら……世界で一番不幸なのは、わたしですみたいな顔をしてたよね」
「……うるさい」
「全部、君の我がままじゃないか」
「うるさいな! 分かってるよ!」
「……そうやって。都合が悪くなると、すぐ大声を出す。君は何も変わってない」
「えっ……?」

顔を上げて黒猫を見ると……わたしから一切視線を反らそうとしない。

「何なの……? あなた……」
黒猫の口角が、ほんのちょっとだけ上がったように見えた。