(……!)

「……?」
「……大丈夫?」
「お姉ちゃん……大丈夫?」

「……!!」

「あ……目、覚ましたじゃん。大丈夫……? お姉ちゃん」
目を開けると、わたしはソファーに横たわっていた。そして健二が心配そうに、わたしに声をかけ続けていたところだった。

「あっ……健二」
「大丈夫? 寝てただけ?」
「う、うん! そうだね。……疲れてたからさ」
「……ふぅん。なら良いけど」

そう言うと健二は安心したように台所へと戻っていく。どうやらお母さんのお手伝いをしていたらしい。

(やった……! 健二と話せるようになってるじゃん……!)

わたしは心躍っていた。思わずにやにやしてしまう。

(本当……いつ振り……?)

「ねえ! 今日のご飯、何―?」
わたしはわざと台所まで声を張り上げる。

「ハンバーグ!」
健二の楽しそうな声。目頭が熱くなる……。

「聞こえたの? お姉ちゃん」
「……うん。……聞こえてるよ……」

これで終わった。わたしのやるべきことは。
多少は気付いてもらえないかも知れない。でも……これで良い。
涙で滲んだハンバーグは、小学生の頃の味がした。食卓に、久し振りに明かりが戻った。

あまりに胸がいっぱいで……あれだけ大好きだったハンバーグを半分残して、わたしは部屋に戻る。

――

――

――

「終わったみたいだね」
ごしごしと袖を使って目をこするわたしに、黒猫が話かけてくる。最近、いつもいる気がする。

砂時計を使い始めてから……上手く言えないけど、黒猫がいてくれて安心している自分がいることに気付き始めていた。ちょっと不安になる時があるから。

「……うん。終わった」
「使っちゃったよ。……3回全部」


「どうだった?」
今日は随分、一つ淡々と話をしてくるように感じる。3回全部、使い切ったからだろうか。それともまだ何か秘密でもあるのかなと思う。

「うーん……」
「嬉しい」
「……でも、ちょっと怖い」

「怖い? どうして? 香織ちゃんの希望、全部叶ったじゃない」
「……わたし、これから気付いてもらえるのかなってさ」
「まぁ、今のところは大丈夫そうじゃない?」
「そうね……今のところはね……」

「気になるんだ」
「……そりゃ、そうだよ」
「どうして?」
「だって、君も言ってたじゃん。『僕も分からない』って。だから……不安なんだよ。これから」
「……ふぅん」

しばらく黒猫は言葉を出さずに、じっとわたしの顔を見つめていた。わたしも色々あったから……しばらくの間、ぼんやり椅子に座っていた。

「香織ちゃんはさ」
「ん? 何?」
「気付いているんじゃないの?」
「何が」
「……」
「何の話?」
「……全然気が付かないんだ」
「……?」

両腕を前にピンと伸ばし、ぐっぐっ……と伸びをする。そしてわたしのベッドに香箱座りで腕を曲げている。

「はぁ」
黒猫が珍しくため息をついた。

「……何? ため息なんて。わたし……何かしたの?」
「僕の言った通りだ」
「えっ?」
「やっぱり……鈍いなぁ、香織ちゃんは」

そう。前も黒猫に言われたな……「君は鈍いな」って。何で?あなたに分かるのよ……確かに鈍いとは思うけれど……。

「気が付かないの? 原因は、全部自分だってこと」
「えっ……」
「全部、君が原因だったんだろ?」

そう言うと、黒猫はさらに語り出した――