「よし、じゃ今日も始めるぞー!」
「起立!」
わたしは1時間目の社会から……ずっと胸がどきどきしている。いや、朝起きた時から……。今日で、すべてやり直すことができる……砂時計を使って。

(……いつやろう)
(休み時間にしようかな……? 昼休み……? 放課後かな……)

休み時間も、昼休みも。真衣ちゃんは誰かと一緒にいる可能性が高い。放課後だって……1人で帰るか分からない。

(ん? 別に……誰かがいても、良いのかな)

昨日、お父さんやお母さんがいた時に使ったことを思い出してみると……別に色々な人がいたって良いような気もする。

(じゃ、昼休みに……しようかな……)

決行する時間が決まった。今日のお昼休みだ――
午前中の授業は、まったく頭に入ってこなかった。

わたしは珍しく給食を残した。いつもは「もうちょっと食べたいな」と思うほどなのに、今日は敢えて少し残したのだ。……落ち着かせる時間を、作るために。

賑やかな教室。わたしは机を一緒に向けてはいるけれど、誰も話かけてくれる人はいない。わたし一人を除いて、皆笑顔なのだ。

(よし……やろう!)

呼吸が少し苦しい。1回実験してるんだから……上手くいくに決まってると思うけれど……ものすごく緊張する。

(真衣ちゃんと……まだ仲良く話をしていた時……)
(そうだ。1年生の最初の頃までは……ずっと仲良しだった……)

わたしは机の中に両手を入れて、砂時計にギューッと力を込める。そして、真衣ちゃんと毎日仲良く帰っていた頃を強く、強く思い出した――

一瞬ふわっと宙に浮いた感覚になり……昨日と同じく、視界が真っ白になっていく。そして耐えられないほどの眠気が、急に襲ってきた――

――

――

――

「香織ちゃん! おはよ!」
「あっ! 真衣ちゃん。おはよー」

(あっ……わたしがいる……)

前回と同じだった。またわたしは浮遊霊がちょっと上から景色を覗き込むように、ふわふわと漂っているような状態。

(ま……この状態でも、別に良いけど……)
(今、いつだろう……朝かな)

いつも見る校門。歩いている『わたし』に真衣ちゃんが後ろから追いついたところだった。

「ねぇ、香織ちゃん」
「ん? 何?」
「他の人に言わないで欲しいんだけどさ――」

(あっ……もしかして……)
(真衣ちゃんの好きな人、教えてもらった時……?)

「何? 言わないよー」
『わたし』は真衣ちゃんの方を向いて、無邪気に笑っている。

「ほんと?」
「当たり前じゃん! 親友だよー? わたし達」
「あのね……」
真衣ちゃんが『わたし』の耳元で、何か呟いた。……きっと悠太くんのことのはず。

(……そうか。ここから……おかしくなるんだ)

「えー!! マジー!?」
「……うん。これ……香織ちゃんにしか言ってないから……ほんとに誰にも言わないで?」
「もう……当ったり前じゃん!」

(それをさ……言っちゃうんだよ。あんた……)

「悠太くんって、2組のだよね?」
「そうそう! ……もう、カッコ良くてー!」

(やっぱり。……2組の悠太くんの話だな……)
(はぁ。何でこの時、言っちゃったんだろ。わたし……)

後悔の念を抱えながら、わたしは2人の後を追って学校へと入っていく。もちろん誰にも気付かれてはいない。

(……んっ?)

昇降口を通って、教室へ向かう『わたし』と真衣ちゃん。その先に……見覚えのある女子がいた。

(洋子ちゃんだ!!!)

そう。去年の1年生の時、『わたし』はこの後、洋子ちゃんにこっそりとバラしてしまうのだ。真衣ちゃんが悠太くんのことを好きなことを。

(そっか。この後……洋子ちゃんに言うんだ。『わたし』)

「じゃ、バイバーイ!」
「あっ、うん。また帰りね!」
『わたし』と真衣ちゃんは1年生の時、違うクラスだった。お互い手を振り、真衣ちゃんは教室に入った。……『わたし』は廊下を真っすぐ進んでいる。

「あっ、洋子ちゃん! おはよ!」
「ん? あぁ、香織ちゃん。おっはー!」

(ああああ……ここだぁ……この後だよね……確か)

何となく思い出してきた。確か……『わたし』と洋子ちゃんはトイレに向かうはず……そこで手を洗いながら、『わたし』が言ったはず。

(絶対に……『わたし』に言わせないからね……)

チャンスを逃すまいと、わたしは集中して歩く2人についていった――