友利の誕生日から数日、今日は花火大会。西原たちと男4人で行く約束をしているため、コンビニで飲み物を買い、待ち合わせ場所へ向かう。
待ち合わせの公園に着くと西原がベンチに座っていた。
「お疲れ」
「よっ」
「あちぃな今日も」
2人でベンチに座り、田中たちを待つ。
「なぁー千賀」
「ん?」
「彼女できた?」
「…んっ、げほっげほっ…」
西原の思いがけない言葉に炭酸ジュースを飲んでいた俺は咳き込んでしまう。
「…何だよいきなり」
「なんか最近の千賀、幸せそうっつーか、肌にツヤがあるっつーか、良い恋愛してる女子みたいな?」
忘れていた。西原は感情のままに生き、ふざけているだけの人間に思われるが、人一倍周りを冷静に見ている奴だ。
「彼女つーか…」
「お待たせー」
田中と的場がやって来た。
4人で会場近くへ歩いて移動する。
「田中は俺らじゃなくて絶対女子と来ると思った」
「たしかに」
「4人で花火大会来るのラストかもしんないじゃん?それに他の花火大会に女の子と行く予定だから」
田中は県外の大学に進学希望だ。4人で過ごす日常もあと半年…あっという間だな。
「じゃあ、今年の夏は4人でたくさん青春しとくか!海行ったり、バーベキューしたり!」
西原は嬉しそうに提案してくる。
「えー海は女の子と行きたいんだけどー、お前らの水着姿とか無価値ー」
「何言ってんだよ!的場の美しい筋肉を拝めるのも最後かもしれないんだぞ!?な、的場!」
「普通の筋肉だから」
「謙遜すんなよ。俺が女なら的場の身体に抱かれたいもん」
「女子を抱けないからってどんな思考になってんだか」
「…。」
田中の何気ない言葉がチクリと刺さる。少し前の俺も同じような感覚だったから、田中に悪意があるなんて思わない。だけど、今は純粋に友利に抱かれてもいいと思っているから些細な言葉が重く感じた。きっと西原たちには卒業するまで言えない秘密なんだろうな。
花火が打ち上がるまでの時間は、露店で腹ごしらえをする。
「牛串あんじゃん!高いけど食いたくなるんだよなぁ」
「俺、向こうで焼きそば買ってくるわ」
「あ、俺も食いたい!2つよろしく」
「はいはい」
焼きそばの列に並び、スマホを見ていると「あ!」と斜め後ろから声がした。背の高い男子がこっちを見ている。
このでけー男どこかで見た気がする…。
「千賀先輩っすよね?」
「え、そうだけど…」
「俺、瑠衣の友達で道弘って言います」
あー、前に友利の横にいた奴か。
「一応俺も先輩と同じ中学校なんすよ!瑠衣とはバレー部で一緒で」
「へぇーそうだったんだ」
「先輩って瑠衣にとって特別な人なんですか?」
「え、何で?」
「だって瑠衣が大好物のプリンをあげてたから。いつも一口すらくれないんすよ」
あいつプリン大好物なんだ。知らなかった。
「いらっしゃいませー」
順番になり、焼きそばを2つ注文し受け取った。
「じゃあ、また学校でな」
20時、大勢の人が上を向く中、花火が夜空に打ち上がる。
「おぉー!迫力やべぇなー!」
「男だけで見る花火も悪くないな」
「だな」
…友利、今何してんだろ。あんまお互いの予定把握してないから分かんねぇな。道弘がいたってことは、一緒に来てたりすんのかな。
次々と打ち上がる花火を見つめながら、頭の中は友利のことでいっぱいだった。
「次は海かプールな!じゃ、またなー」
「また連絡するわー。お疲れ」
解散し、1人電車に乗り込むと浴衣を着た人が大勢いた。
ー友利、浴衣似合いそうだな。
最寄駅の改札を抜け、しばらく歩くと声がした。
「せんぱーい」
この声は…。友利が駆け寄ってくる。
「えっ、何でいんの!?」
「僕も花火大会行ってたんですよぉ。道弘から先輩がいたって聞いて探したんですけど、結局電車内でやっと見つけて」
「そっか。あれ、道弘は?」
「他のメンバーと帰ってもらいましたぁ。僕は先輩と帰りたかったんで」
不意をつかれ、キュンとなってしまった。
「あ、先輩まだ時間大丈夫です?」
「うん、大丈夫」
「ならコンビニ寄りたいです」
コンビニに入った友利は「よかった、あった」と入り口近くの手持ち花火を手に持った。
「買ってきまーす」
外に出て「一緒に花火見れなかったから、2人で花火しましょう!」と笑顔で提案され、ドキドキわくわくした。
「最高過ぎんだろ、それ」
誰もいない暗い公園で、2人でする花火は特別に感じた。花火の光に照らされた友利は、いつも以上にかっこよくて、見惚れてしまいそうだ。
横並びにしゃがんで、線香花火がぱちぱちと激しくなっていくのを見つめる。
「来年は一緒に花火大会行きましょうね」
優しい眼差しで俺を見る友利は幸せそうに見えた。
「…約束な」
次の夏がこんなに待ち遠しいのは初めてだ。
お盆が終わり数日後、夏休み中に1日だけある登校日がやってきた。
「ねみぃ…」
まだ起きていない脳みそと身体で、なんとか教室にたどり着いた。まだ西原の姿はない。
あいつサボるつもり…いや、忘れてる可能性大だな。遊びとバイトの予定詰め込んでるみたいだったしなぁ。
体育で行われている全校集会で、俺は列の1番後ろで先生の話も聞かず、ぼーっと周りを見ていた。ふと目に入ったのは陽子ちゃん。
あ、やべ。夏休み的場と遊びたいって言ってたな。…あ!今日遊べばいいんじゃね?
集会終わり的場に声をかけた。
「今日このあと暇?」
「暇だけど」
「おし!ちょっと来て」
的場を連れて、体育館を出てきた陽子ちゃんたちの元へいく。
「陽子ちゃん」
「あ、お疲れ様です」
「陽子ちゃんとまみちゃん、このあと予定ある?」
「いえ、ないですけど…」
「じゃあ、4人で昼飯食べいこっか」
「え、いいんですか!?」
「いいよな、的場!」
「うん」
「なになにー、ダブルデートー?」
田中がノリノリで話に割り込んでくる。
「別にそんなんじゃ…っ」
その時ちょうど友利が道弘と側を通りかかった。一瞬目線はこっちを向いていたが、立ち止まることなく進む姿に逆に焦る。
もしかして、今の聞こえたんじゃ…。まぁ、でもデートじゃねーし、ただ飯行くだけだし…大丈夫だよな…?
学校から歩いて行ける距離にあるファミレスに寄った。店内は満席に近い状態で、親子連れや他校の生徒などで賑わっている。
「腹減ったー。とりあえずドリンクバー頼むか」
「まだランチセットの時間に間に合いますね」
注文が終わり、的場とまみちゃんと交代で陽子ちゃんとドリンクバーに飲み物をつぎに行く。
「千賀先輩、何飲むんですか?」
「んーとりあえずコーラにすっかな。陽子ちゃん決まった?」
「私もコーラにします」
「じゃあ、入れるな」
陽子ちゃんからグラスを受け取り、コーラのボタンを押した。
「持って行くから先戻ってていーよ」
「ありがとうございます」
自分用のグラスを設置した時「あ!」と声がして、横を見ると道弘がいた。
「また会いましたね!お疲れ様です!」
「お疲れ。友達と昼飯?」
「そうっす!あ、瑠衣もいますけど呼びましょうか?」
「えっ…」
うわぁ、まさかのタイミング…。
「いや、呼ばなくて大丈夫」
急いでコーラのボタンを押し、足早に席に戻る。
これで俺がここにいるのがバレたな。つーか、仲良いとはいえ道弘の瑠衣呼びがモヤモヤする。
それぞれ頼んだものを食いながらまみちゃんの止まらない話を聞いていた。
「てゆーか、的場先輩ってあの俳優さんに似てますよね!?この前月9に出てた…」
どんなに話題を振られようとも的場の返しは「うん」「そだね」「いいや」など一言で終了。それにめげずに話しかけるまみちゃんは、素晴らしい。
「ちょっとトイレ」
黙々と食べる的場を残し、トイレのため席を外した。
用を足し、ドアを開けると入ろうとしてきた友利と出会した。
「わぁっ…よぉ…」
無意識に目を逸らしてしまった。
「デート中ですかぁ?」
「…ちげーよ」
「…。」
友利に無言のままグイッと腕を引かれ、個室の中へ連れて行かれた。鍵を閉めた友利は俺に喋る隙を与えず、何度もキスをしてくる。
「…んっ…」
キスを止め、目をじっと見ながら問いかけてくる友利。
「あの人が先輩のこと狙ってるの知ってて、何でご飯誘ってるんですか?」
「別に狙ってなんか…」
「それは先輩の決めることじゃないです」
「…。」
「ねぇ、僕がヤキモチ妬いてるの分かってます?」
たまにある拗ねた表情とは違い、嫉妬と怒りを含んだ顔で見つめられ、ゾクッとする。
「…お前以外の奴に興味なんかねぇよ…」
「…じゃあ、僕と帰りましょうよ」
「それは無理。まだ飯の途中だし、あの場の男を的場だけにするのは心配だから」
「…そうですか」
小さな声でそう言った友利は鍵を開け、トイレから1人出て行った。
「はぁ…女子かよ」
「また学校でなー!」
「はい、ありがとうございました」
陽子ちゃん、まみちゃんとファミレス前で別れ、的場とコンビニへ行くため歩き始める。
「外あちー。…つーか、まみちゃんのマシンガントークやばかったなー。的場、話ついていけてた?」
「まぁまぁかな。…あの子、楽しそうに喋るから見てて飽きないよな」
「…ふーん、そっか」
的場の予想外の言葉に口角が少し上がる。
誰かに対して、可愛いとか、飽きないとか、嫌だとか、寂しいとか、思う基準は人それぞれで、だからこそ好きな人と惹かれ合うのは特別だ。
友利は今、俺に対して何を思ってるんだろう。
それから数日、友利からの連絡は途絶えていた。あいつ嫉妬したら、面倒くさい女子にみたいになんのか。意外だな。
中途半端な気持ちと状況で夏休みを終わりたくなくて、昼過ぎに友利の家にアポ無しで向かった。
親が出てくるかも…そもそも友利居んのかな…少し緊張しながらもインターホンを押した。
ガチャ…出てきたのはマスク姿の友利。
「え…先輩?…何で…」
「あれ、もしかして、体調悪りーの!?」
どうやらあの後から体調を崩し、寝込んでいたから連絡ができなかったらしい。
部屋に入れてもらい、ベット横に座る友利に尋ねた。
「なんかゼリーとかドリンク買ってこようか?」
「いえ、大丈夫です。もう熱もないですし、今日寝れば完全復活すると思いまぁす」
「ごめんな、気付かなくて」
「いえ、僕こそ連絡できなくてごめんなさい」
「…よかった」
「え?」
「元気になったこともそうだし、愛想尽かされてなくてよかったなって」
「ヤキモチは妬いても、愛想を尽かすことは絶対ないですよぉ。それに数日連絡ないだけで、わざわざ家まで来ちゃうくらい僕のこと好きなんだって分かったんで、安心しましたぁ」
「お前、馬鹿にしてるだろ」
「してませんよぉ!嬉しかったんです。愛されるなぁって、自惚れちゃいそうなぐらい」
…自分でも気付かなかった。この短期間で俺…
「…自惚れじゃねぇよ、事実だから…ちゅ」
友利に相当惚れてる。
「…風邪うつりますよ」
「馬鹿は風邪ひかねぇから」
「先輩からキスしてくれるの初めてで…熱が上がりそうです」
「暑さのせいだろそれ」
「いいんですー。もっと熱くなりましょうよ…」
そう言った友利は俺を軽く抱き上げ、ベットの上に座らせた。
「もう一回先輩からキスしてください」
改めてお願いされるとさっきと違い、恥ずかしさが勝ってしまう。
「…特別な」
俺からのキスが合図だったかのようにキスをしながら友利は俺を押し倒した。
窓の外で蝉の声がうるさく、エアコンの効いた空間で、お互いの汗ばんでいく身体をゆっくり重ねた。
まだまだ日差しの強い夕方。友利の親が帰ってくる前に家を出ることにした。
「急に来てごめんな。また連絡する…」
どんな顔をすればいいのか分からず、素っ気ない態度を取る俺とは正反対に、友利はいつもの調子だ。
「わざわざ有難うございましたぁ。気をつけて帰ってくださいねぇ」
「…おぉ、じゃあまた」
「さよならー」
1人帰路につく俺の頭の中は、最中の友利の表情や声、触れた肌のことでいっぱいだ。
ーあぁ、もう会いてぇ…。
残りの夏休みは、バイトして、ちょこっと勉強して、友利と水族館に行ったり、西原たちとバーベキューしたり、我ながらすげぇ充実した毎日だったと思う。
2学期が始まり数日が経った。やっと受験生の自覚が芽生えた俺は、授業をサボることをやめた。居眠りはやめられてねーけど。
昼休み、西原たちと購買へ向かう。
「購買も食堂みたいにモバイルオーダーしてくんねぇかな!?」
「さすがにそれは無理だろ」
「そういえば、陽子ちゃんたちとのダブルデートどうなった?」
「は!?ダブルデート!?」
田中の発言に西原はパニックになっている。
「だからデートじゃねーって。ただ昼飯食っただけ」
「その感じ、もしかしてまだ連絡先を…」
「あーごめん、俺やっぱ彼女いらねーわ。…あ、まだあった」
購買に着き、お目当てのプリンを手に入れた。
「じゃあ、俺行くな」
パンを選んでいる西原たちと別れ、友利が待つ場所へ急ぐ。
「お待たせ」
「お疲れ様でーす」
「はい、これ」
「わーなめらかぷるるんプリンだぁ!」
友利は嬉しそうにプリンの蓋を開け、スプーンですくう。
「デザート最初に食うのかよ」
「お腹空いた状態で好きなもの食べたら最高ですもん。先輩、あーん…」
「えっ」
スプーンを差し出され、照れている間に口の中に入れられてしまう。
「一緒に食べた方が美味しいんで」
緩く笑った友利につられて俺も笑顔になった。
第3校舎の屋上ドア前にある踊り場。ここが俺たちの秘密の場所。仲の良い奴らにも教えていない、2人で過ごすための特別な場所。
待ち合わせの公園に着くと西原がベンチに座っていた。
「お疲れ」
「よっ」
「あちぃな今日も」
2人でベンチに座り、田中たちを待つ。
「なぁー千賀」
「ん?」
「彼女できた?」
「…んっ、げほっげほっ…」
西原の思いがけない言葉に炭酸ジュースを飲んでいた俺は咳き込んでしまう。
「…何だよいきなり」
「なんか最近の千賀、幸せそうっつーか、肌にツヤがあるっつーか、良い恋愛してる女子みたいな?」
忘れていた。西原は感情のままに生き、ふざけているだけの人間に思われるが、人一倍周りを冷静に見ている奴だ。
「彼女つーか…」
「お待たせー」
田中と的場がやって来た。
4人で会場近くへ歩いて移動する。
「田中は俺らじゃなくて絶対女子と来ると思った」
「たしかに」
「4人で花火大会来るのラストかもしんないじゃん?それに他の花火大会に女の子と行く予定だから」
田中は県外の大学に進学希望だ。4人で過ごす日常もあと半年…あっという間だな。
「じゃあ、今年の夏は4人でたくさん青春しとくか!海行ったり、バーベキューしたり!」
西原は嬉しそうに提案してくる。
「えー海は女の子と行きたいんだけどー、お前らの水着姿とか無価値ー」
「何言ってんだよ!的場の美しい筋肉を拝めるのも最後かもしれないんだぞ!?な、的場!」
「普通の筋肉だから」
「謙遜すんなよ。俺が女なら的場の身体に抱かれたいもん」
「女子を抱けないからってどんな思考になってんだか」
「…。」
田中の何気ない言葉がチクリと刺さる。少し前の俺も同じような感覚だったから、田中に悪意があるなんて思わない。だけど、今は純粋に友利に抱かれてもいいと思っているから些細な言葉が重く感じた。きっと西原たちには卒業するまで言えない秘密なんだろうな。
花火が打ち上がるまでの時間は、露店で腹ごしらえをする。
「牛串あんじゃん!高いけど食いたくなるんだよなぁ」
「俺、向こうで焼きそば買ってくるわ」
「あ、俺も食いたい!2つよろしく」
「はいはい」
焼きそばの列に並び、スマホを見ていると「あ!」と斜め後ろから声がした。背の高い男子がこっちを見ている。
このでけー男どこかで見た気がする…。
「千賀先輩っすよね?」
「え、そうだけど…」
「俺、瑠衣の友達で道弘って言います」
あー、前に友利の横にいた奴か。
「一応俺も先輩と同じ中学校なんすよ!瑠衣とはバレー部で一緒で」
「へぇーそうだったんだ」
「先輩って瑠衣にとって特別な人なんですか?」
「え、何で?」
「だって瑠衣が大好物のプリンをあげてたから。いつも一口すらくれないんすよ」
あいつプリン大好物なんだ。知らなかった。
「いらっしゃいませー」
順番になり、焼きそばを2つ注文し受け取った。
「じゃあ、また学校でな」
20時、大勢の人が上を向く中、花火が夜空に打ち上がる。
「おぉー!迫力やべぇなー!」
「男だけで見る花火も悪くないな」
「だな」
…友利、今何してんだろ。あんまお互いの予定把握してないから分かんねぇな。道弘がいたってことは、一緒に来てたりすんのかな。
次々と打ち上がる花火を見つめながら、頭の中は友利のことでいっぱいだった。
「次は海かプールな!じゃ、またなー」
「また連絡するわー。お疲れ」
解散し、1人電車に乗り込むと浴衣を着た人が大勢いた。
ー友利、浴衣似合いそうだな。
最寄駅の改札を抜け、しばらく歩くと声がした。
「せんぱーい」
この声は…。友利が駆け寄ってくる。
「えっ、何でいんの!?」
「僕も花火大会行ってたんですよぉ。道弘から先輩がいたって聞いて探したんですけど、結局電車内でやっと見つけて」
「そっか。あれ、道弘は?」
「他のメンバーと帰ってもらいましたぁ。僕は先輩と帰りたかったんで」
不意をつかれ、キュンとなってしまった。
「あ、先輩まだ時間大丈夫です?」
「うん、大丈夫」
「ならコンビニ寄りたいです」
コンビニに入った友利は「よかった、あった」と入り口近くの手持ち花火を手に持った。
「買ってきまーす」
外に出て「一緒に花火見れなかったから、2人で花火しましょう!」と笑顔で提案され、ドキドキわくわくした。
「最高過ぎんだろ、それ」
誰もいない暗い公園で、2人でする花火は特別に感じた。花火の光に照らされた友利は、いつも以上にかっこよくて、見惚れてしまいそうだ。
横並びにしゃがんで、線香花火がぱちぱちと激しくなっていくのを見つめる。
「来年は一緒に花火大会行きましょうね」
優しい眼差しで俺を見る友利は幸せそうに見えた。
「…約束な」
次の夏がこんなに待ち遠しいのは初めてだ。
お盆が終わり数日後、夏休み中に1日だけある登校日がやってきた。
「ねみぃ…」
まだ起きていない脳みそと身体で、なんとか教室にたどり着いた。まだ西原の姿はない。
あいつサボるつもり…いや、忘れてる可能性大だな。遊びとバイトの予定詰め込んでるみたいだったしなぁ。
体育で行われている全校集会で、俺は列の1番後ろで先生の話も聞かず、ぼーっと周りを見ていた。ふと目に入ったのは陽子ちゃん。
あ、やべ。夏休み的場と遊びたいって言ってたな。…あ!今日遊べばいいんじゃね?
集会終わり的場に声をかけた。
「今日このあと暇?」
「暇だけど」
「おし!ちょっと来て」
的場を連れて、体育館を出てきた陽子ちゃんたちの元へいく。
「陽子ちゃん」
「あ、お疲れ様です」
「陽子ちゃんとまみちゃん、このあと予定ある?」
「いえ、ないですけど…」
「じゃあ、4人で昼飯食べいこっか」
「え、いいんですか!?」
「いいよな、的場!」
「うん」
「なになにー、ダブルデートー?」
田中がノリノリで話に割り込んでくる。
「別にそんなんじゃ…っ」
その時ちょうど友利が道弘と側を通りかかった。一瞬目線はこっちを向いていたが、立ち止まることなく進む姿に逆に焦る。
もしかして、今の聞こえたんじゃ…。まぁ、でもデートじゃねーし、ただ飯行くだけだし…大丈夫だよな…?
学校から歩いて行ける距離にあるファミレスに寄った。店内は満席に近い状態で、親子連れや他校の生徒などで賑わっている。
「腹減ったー。とりあえずドリンクバー頼むか」
「まだランチセットの時間に間に合いますね」
注文が終わり、的場とまみちゃんと交代で陽子ちゃんとドリンクバーに飲み物をつぎに行く。
「千賀先輩、何飲むんですか?」
「んーとりあえずコーラにすっかな。陽子ちゃん決まった?」
「私もコーラにします」
「じゃあ、入れるな」
陽子ちゃんからグラスを受け取り、コーラのボタンを押した。
「持って行くから先戻ってていーよ」
「ありがとうございます」
自分用のグラスを設置した時「あ!」と声がして、横を見ると道弘がいた。
「また会いましたね!お疲れ様です!」
「お疲れ。友達と昼飯?」
「そうっす!あ、瑠衣もいますけど呼びましょうか?」
「えっ…」
うわぁ、まさかのタイミング…。
「いや、呼ばなくて大丈夫」
急いでコーラのボタンを押し、足早に席に戻る。
これで俺がここにいるのがバレたな。つーか、仲良いとはいえ道弘の瑠衣呼びがモヤモヤする。
それぞれ頼んだものを食いながらまみちゃんの止まらない話を聞いていた。
「てゆーか、的場先輩ってあの俳優さんに似てますよね!?この前月9に出てた…」
どんなに話題を振られようとも的場の返しは「うん」「そだね」「いいや」など一言で終了。それにめげずに話しかけるまみちゃんは、素晴らしい。
「ちょっとトイレ」
黙々と食べる的場を残し、トイレのため席を外した。
用を足し、ドアを開けると入ろうとしてきた友利と出会した。
「わぁっ…よぉ…」
無意識に目を逸らしてしまった。
「デート中ですかぁ?」
「…ちげーよ」
「…。」
友利に無言のままグイッと腕を引かれ、個室の中へ連れて行かれた。鍵を閉めた友利は俺に喋る隙を与えず、何度もキスをしてくる。
「…んっ…」
キスを止め、目をじっと見ながら問いかけてくる友利。
「あの人が先輩のこと狙ってるの知ってて、何でご飯誘ってるんですか?」
「別に狙ってなんか…」
「それは先輩の決めることじゃないです」
「…。」
「ねぇ、僕がヤキモチ妬いてるの分かってます?」
たまにある拗ねた表情とは違い、嫉妬と怒りを含んだ顔で見つめられ、ゾクッとする。
「…お前以外の奴に興味なんかねぇよ…」
「…じゃあ、僕と帰りましょうよ」
「それは無理。まだ飯の途中だし、あの場の男を的場だけにするのは心配だから」
「…そうですか」
小さな声でそう言った友利は鍵を開け、トイレから1人出て行った。
「はぁ…女子かよ」
「また学校でなー!」
「はい、ありがとうございました」
陽子ちゃん、まみちゃんとファミレス前で別れ、的場とコンビニへ行くため歩き始める。
「外あちー。…つーか、まみちゃんのマシンガントークやばかったなー。的場、話ついていけてた?」
「まぁまぁかな。…あの子、楽しそうに喋るから見てて飽きないよな」
「…ふーん、そっか」
的場の予想外の言葉に口角が少し上がる。
誰かに対して、可愛いとか、飽きないとか、嫌だとか、寂しいとか、思う基準は人それぞれで、だからこそ好きな人と惹かれ合うのは特別だ。
友利は今、俺に対して何を思ってるんだろう。
それから数日、友利からの連絡は途絶えていた。あいつ嫉妬したら、面倒くさい女子にみたいになんのか。意外だな。
中途半端な気持ちと状況で夏休みを終わりたくなくて、昼過ぎに友利の家にアポ無しで向かった。
親が出てくるかも…そもそも友利居んのかな…少し緊張しながらもインターホンを押した。
ガチャ…出てきたのはマスク姿の友利。
「え…先輩?…何で…」
「あれ、もしかして、体調悪りーの!?」
どうやらあの後から体調を崩し、寝込んでいたから連絡ができなかったらしい。
部屋に入れてもらい、ベット横に座る友利に尋ねた。
「なんかゼリーとかドリンク買ってこようか?」
「いえ、大丈夫です。もう熱もないですし、今日寝れば完全復活すると思いまぁす」
「ごめんな、気付かなくて」
「いえ、僕こそ連絡できなくてごめんなさい」
「…よかった」
「え?」
「元気になったこともそうだし、愛想尽かされてなくてよかったなって」
「ヤキモチは妬いても、愛想を尽かすことは絶対ないですよぉ。それに数日連絡ないだけで、わざわざ家まで来ちゃうくらい僕のこと好きなんだって分かったんで、安心しましたぁ」
「お前、馬鹿にしてるだろ」
「してませんよぉ!嬉しかったんです。愛されるなぁって、自惚れちゃいそうなぐらい」
…自分でも気付かなかった。この短期間で俺…
「…自惚れじゃねぇよ、事実だから…ちゅ」
友利に相当惚れてる。
「…風邪うつりますよ」
「馬鹿は風邪ひかねぇから」
「先輩からキスしてくれるの初めてで…熱が上がりそうです」
「暑さのせいだろそれ」
「いいんですー。もっと熱くなりましょうよ…」
そう言った友利は俺を軽く抱き上げ、ベットの上に座らせた。
「もう一回先輩からキスしてください」
改めてお願いされるとさっきと違い、恥ずかしさが勝ってしまう。
「…特別な」
俺からのキスが合図だったかのようにキスをしながら友利は俺を押し倒した。
窓の外で蝉の声がうるさく、エアコンの効いた空間で、お互いの汗ばんでいく身体をゆっくり重ねた。
まだまだ日差しの強い夕方。友利の親が帰ってくる前に家を出ることにした。
「急に来てごめんな。また連絡する…」
どんな顔をすればいいのか分からず、素っ気ない態度を取る俺とは正反対に、友利はいつもの調子だ。
「わざわざ有難うございましたぁ。気をつけて帰ってくださいねぇ」
「…おぉ、じゃあまた」
「さよならー」
1人帰路につく俺の頭の中は、最中の友利の表情や声、触れた肌のことでいっぱいだ。
ーあぁ、もう会いてぇ…。
残りの夏休みは、バイトして、ちょこっと勉強して、友利と水族館に行ったり、西原たちとバーベキューしたり、我ながらすげぇ充実した毎日だったと思う。
2学期が始まり数日が経った。やっと受験生の自覚が芽生えた俺は、授業をサボることをやめた。居眠りはやめられてねーけど。
昼休み、西原たちと購買へ向かう。
「購買も食堂みたいにモバイルオーダーしてくんねぇかな!?」
「さすがにそれは無理だろ」
「そういえば、陽子ちゃんたちとのダブルデートどうなった?」
「は!?ダブルデート!?」
田中の発言に西原はパニックになっている。
「だからデートじゃねーって。ただ昼飯食っただけ」
「その感じ、もしかしてまだ連絡先を…」
「あーごめん、俺やっぱ彼女いらねーわ。…あ、まだあった」
購買に着き、お目当てのプリンを手に入れた。
「じゃあ、俺行くな」
パンを選んでいる西原たちと別れ、友利が待つ場所へ急ぐ。
「お待たせ」
「お疲れ様でーす」
「はい、これ」
「わーなめらかぷるるんプリンだぁ!」
友利は嬉しそうにプリンの蓋を開け、スプーンですくう。
「デザート最初に食うのかよ」
「お腹空いた状態で好きなもの食べたら最高ですもん。先輩、あーん…」
「えっ」
スプーンを差し出され、照れている間に口の中に入れられてしまう。
「一緒に食べた方が美味しいんで」
緩く笑った友利につられて俺も笑顔になった。
第3校舎の屋上ドア前にある踊り場。ここが俺たちの秘密の場所。仲の良い奴らにも教えていない、2人で過ごすための特別な場所。
