突然大きな音を立てて、教室の扉が開いたので、驚いて読みかけの本から顔を上げると、アイザと出て行った女の子がそこにはいた。彼女は俺を見つけると、すぐに目を逸らして、二人分の鞄を手に、さっさと教室を飛び出して行ってしまう。
 何事かと思いながら、出て行った扉を眺めていると、数分遅れてアイザが顔を出した。
「シュン、ごめんね」
 悪気のなさそうな、いつもの笑顔がそこにある。俺はそれに少しだけほっとしながら、手に持っている本を鞄の中に仕舞った。
「大丈夫?」
 たぶん、告白かそう言う類のことだったんだろう? と俺なりに含みを持たせて聞いてみると、彼は「ああ」と言葉を濁した。
 アイザでもこういう反応するんだ、なんて珍しく思っていると、彼は俺の前の椅子を引くと、そこに腰を下ろした。
「モテモテだな」
 からかい半分、俺の心を隠したい半分で、肩を突いてやると、
「ん~、モテモテは嬉しくないよ」
 と、アイザは首を横に振った。
「嬉しいもんじゃないの?」
「だって、ごめんなさいってするの、ん~……なんか、すごく……んー……悲しい? 嫌な気持ち? うーん」
 気持ちをどういえば良いのか分からないと、アイザは黙り込んでしまった。
「……ごめんなさいって、したんだ」
 だから、彼女は何も言わずに、俺を見て教室を出て行ったのか。
 俺は嬉しいような、そして嬉しいと思ってしまう自分の底意地の悪さに嫌悪した。
 でも――俺も、アイザが好きだから……。
「だってね。ぼくが好きなの、シュンだから」
 ――ぼくが好きなの、シュンだから?
 聞き違いかと思って顔を上げると、
「シュンが好きだから、ごめんなさいしてきた」
 そう真っ直ぐと言われた。
 何かを言ってやりたいのに、頭の中はアイザの言葉で真っ新になり、何も考えられない。何も出て来ない。
 ただ心臓がどくどくと脈打ち、身体中が心臓になってしまったみたいに鼓動を刻み、視界を揺らしていた。
「え?」
 ようやく出て来た疑問符に、アイザは眦を下げて笑った。
「気付いてない? ぼくずっと、シュンが好き」
「え、知らな……」
「ぼくは知ってるよ、シュンもぼくが好き」
 そう自信満々に告げられて、自分の顔が熱を持っていくのが分かる。アイザは俺の手を取ると、優しく大きな手で握り込み、
「シュンのやさしい独り占めしたい。シュンの好きも、シュンの全部」
 そう言いながら、指先に口づけられた。
「シュンの番だよ」
「俺の番……?」
 アイザを見れば、彼は優しく微笑みながら、俺の手を握り込み頷く。優しいのに、俺を逃がしてはくれない、強い眼差しが俺を心臓と心を同時に貫く。
「お、俺は……」
 俺は震える唇を開いた。
 窓越しに校庭から、サッカーのホイッスルの音が響いていた。