日が暮れ、屋敷の灯がともる頃。
咲妃は囲炉裏のそばで夕餉の支度をしていた。
湯気の向こうで、晴明が何かを書き記している。
式神たちは天井の梁にとまり、朱雀は火のそばであたたかそうに羽を休めていた。
「晴明さん、少し味見してもらっていいですか?」
咲妃が椀を差し出すと、晴明は筆を置き、静かに受け取った。
ひと口含んで、少し目を細める。
「……悪くない。塩加減も程よい。」
「ほんとですか? 前はちょっとしょっぱいって言ってましたよね?」
「学習したようだな。咲妃、そなたは努力家だ。」
その言葉に、咲妃は顔を赤らめて俯いた。
晴明の言葉は、いつも穏やかで、だけどどこかくすぐったくて。
慣れたと思っても、胸の奥がじんわりと熱くなる。
食後、咲妃は晴明と並んで縁側に座った。
夜空には満月が浮かび、庭の池に静かに映りこんでいる。



