けれどすぐに首を横に振った。


 「ううん、それでも――会いたい。」


 どんな結果でもいい。

 たとえ彼が自分を覚えていなくても、
 彼が幸せでいるなら、それでいい。


 でも――この想いだけは、伝えたい。



 咲妃は、そっと胸に手を当てた。


 指先が触れるのは、懐に忍ばせた一枚の札。

 それは、かつて自分を未来へ導いたもの。

 まるで再び“運命の糸”を手繰り寄せるように、咲妃は歩き出した。


「……会いにいきます、晴明さん。」


 陽射しの中、彼女の髪がふわりと揺れた。

 記憶の彼方にある屋敷――安倍晴明の住まう地を目指して。



 彼女の足取りは、迷いながらも、確かに“運命”の方へと導かれていった。