ドンッ!!

 外で大きな雷鳴が響き、
 図書室全体の明かりがふっと消えた。

 「きゃっ!」

 驚いた咲妃は、脚立の上でバランスを崩し、床へ倒れ込む。

 バサバサと古書が崩れ落ち、紙の匂いと埃が舞い上がる。

 雷の閃光が、暗闇の中で一瞬、咲妃とその本を照らした。


薄明かりの中――その本は、まるで彼女を呼んでいるかのように光を帯びていた。


 咲妃は手を伸ばし、震える指で表紙を撫でる。

 「……これ……安倍晴明……?」

 そっと開いた一頁目。

 そこには――見覚えのある、古びたお札が貼られていた。



"転輪の符”



 「……え……これ、……まさか……」


 埃を払いながら、そのお札をゆっくりと剥がした瞬間、
 空気がぴんと張りつめ、視界がぐらりと揺れる。




「――っ!」

 めまいが襲い、足元が消えるような感覚。

 心臓の鼓動が遠ざかっていく。


 最後に聞こえたのは、雷鳴とともに、
 どこか懐かしい――低く優しい声だった。


 『咲妃……』

 そして、世界は静かに暗転した。