風が吹いた。


 木々がざわめき、白い花びらが舞い上がる。

 ふと、晴明の頬を何かが撫でた。


 それは——あの日、咲妃の手が触れた時と同じ温もりだった。


 晴明は目を閉じ、そっと呟いた。


 「咲妃……そなたの魂が、未来で笑っていることを、我は祈る。」


 博雅は黙って隣に立ち、同じ空を見上げた。

 その空はどこまでも澄み渡り、まるで時を越えて、未来の彼女へと繋がっているかのようだった。




やがて、式神たちが空へと舞い上がり、一羽の白い鳥が東の空へ飛び立った。


 晴明はその姿を見つめながら、胸の中で静かに呟く。

 「——また、逢おう。いつか、千年の時を越えて。」

 その言葉は風に乗り、遥か未来へと流れていった。