すると――そのとき。

 最上段の棚の奥に、ひときわ古びた本が目に留まった。

『陰陽寮秘録 ―安倍晴明とその時代―』

「……あった。」

 胸が高鳴る。
 図書カードを見ると、そこには誰の名前も書かれていなかった。
 “貸出一番目”――その小さなことが、なぜかとても嬉しかった。

 咲妃はそっと微笑みながら、丁寧にその本を手に取った。
 布張りのカバーは少しほこりっぽいけれど、どこか神聖な気配がある。