安倍晴明。

 千年前の陰陽師。伝説の人。
 教科書で初めてその名前を見たときから、咲妃の胸は不思議なときめきで満たされていた。

「もし、あの人が本当にいたら……どんな声で話すんだろう。」

 ひとりごとのように呟く。
 課題で「平安時代の人物を調べよ」と出されたとき、
 迷うことなく“安倍晴明”を選んだ。
 だから今日も、誰もいない放課後の図書室で、静かに資料を探している。