帝はしばらく沈黙した後、うなずいた。

「家族……か。そうか、それは残念であるな。」

 咲妃はほっと息を吐く。胸の奥の緊張が少しだけ解けた。

 挨拶を終え、帰り際、帝は穏やかに笑った。

「咲妃殿。いつ帰るか定かでないが、この世を噛み締めて生きよ。」

 咲妃は丁寧に頭を下げ、声を震わせながらお礼を言った。


「ありがとうございます、帝様。」


帝は晴明に向き直り、低い声で言った。

「家族のことを申していたが、晴明殿、咲妃殿には素直であれ。我はそれが良いと思うぞ。」

 晴明は一瞬驚き、頭を下げる。

帝の言葉から、少しは咲妃への想いが見抜かれていたことを悟ったのだ。


咲妃は晴明の袖を掴み、胸の奥で小さな微笑みを浮かべた。

「(晴明さん……私のこと、大切に思ってくれているのかな……)」


 それを感じた晴明もまた、咲妃の手の温もりに心を揺らすのだった。