――カサ、カサ……風が草を揺らしている音が聞こえた。

 まぶたの裏に柔らかな光が差し込んでくる。
 咲妃は、ゆっくりと目を開けた。

 そこにあったのは、見慣れた図書室の天井でも、教室の白い蛍光灯でもなかった。

 淡い空色の空。
見上げた先に広がるのは、木造の屋根と瓦、遠くにそびえる朱色の門。

「……え?」

 息を呑む。

 周りを見渡すと、土の道、古びた木の柵、着物姿の人々が行き交っている。

 まるで映画の撮影セットの中に迷い込んだようだった。