「……臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前……」

 お経のような、低く響く声。
 誰のものでもないのに、確かに耳元で聞こえる。

「だれ……? やめて……!」

 咲妃が叫んだ瞬間、
 ページの文字が光り出した。
 白でも黒でもない、金色の光。
 視界が歪み、床が揺れる。

「いやっ……!」

立ち上がろうとした瞬間、
 本からまばゆい光が溢れ、咲妃の身体を包み込んだ。
 髪が宙に浮き、紙の札がひとりでに舞い上がる。
 そして――

 視界が、弾けた。



 最後に見えたのは、
 机の上で閉じられたままの古い本と、
 窓の外で沈みかけた、血のように赤い夕陽だった。