声がして左右を見渡すが、人の姿はない。
たしかに今、誰かに話しかけられた気がする……。
目線を下げたところに、ちょこんと気配があった。雲のような白い毛をもふっとさせて、首につけた橙の鈴がチリンと鳴る。
……なんだ、猫か。
真っ暗だった祖母の屋敷に、ぽわんと明かりが灯る。誰も住んでいないはずなのに、どうして?
『ささっ、早う中へ入りなされ』
目の前に座っていた猫がムクっと起き上がり、手招きする。
「……にゃんこが、しゃべった⁉︎」
しっかりと口元が動いていた。間違いなく、この猫から言葉が出て来た。
驚いている私に構わず、猫はヒタヒタと足音を立てて玄関へ向かう。飾り提灯がパッと光って、まるで来客を迎える準備をしているようだ。
引き戸がひとりでに開き、猫は我が物顔で屋敷の中へ。
「ねえねえ、なんで私の名前知ってるの? あなた、何者?」
口元に手を当てて、小声で聞いてみる。特に意味はない。
『知っておりますとも。それはもうカフカ殿の小さなときから。なあ〜に、怪しい者ではありません。ただの【ぽてまろ】でございますよ』
毛並みだけでなく声色もふわふわとしている。ぽてまろ……マシュマロみたいでおいしそうな名前だと思いながら、私は猫を追って居間へ入った。
懐かしい祖母の家は、記憶の中とは少し違っていた。走り回っていたお座敷の囲炉裏の向こうに、知らないカウンターがある。その前に台所があって、伏せた食器がそのままになっていた。
「おばあちゃんの匂いだ。懐かしいのに、なんだか新鮮。なんでだろ」
台所に立つと、幼い頃を思い出す。
長期休みに来るこの家は、私にとって特別な場所で、ちょっとした旅行気分でもあった。祖母の作ってくれるご飯はどれもあたたかくて、おいしい。いつも誰かがそばにいて、一緒に遊んだかけがえのない場所だ。
鮮やかな青の小皿を手に取って、ペンダントライトの光りを浴びせる。夜空に散らばる星空のようなキラキラした装飾が美しい。人を出迎える時に使う食器だろう。
『あたりまえでございます。【トキの庵】はお彼岸の十四日間だけ。カフカ殿が遊びに来る日は、普通の家でしたからねぇ』
たしかに今、誰かに話しかけられた気がする……。
目線を下げたところに、ちょこんと気配があった。雲のような白い毛をもふっとさせて、首につけた橙の鈴がチリンと鳴る。
……なんだ、猫か。
真っ暗だった祖母の屋敷に、ぽわんと明かりが灯る。誰も住んでいないはずなのに、どうして?
『ささっ、早う中へ入りなされ』
目の前に座っていた猫がムクっと起き上がり、手招きする。
「……にゃんこが、しゃべった⁉︎」
しっかりと口元が動いていた。間違いなく、この猫から言葉が出て来た。
驚いている私に構わず、猫はヒタヒタと足音を立てて玄関へ向かう。飾り提灯がパッと光って、まるで来客を迎える準備をしているようだ。
引き戸がひとりでに開き、猫は我が物顔で屋敷の中へ。
「ねえねえ、なんで私の名前知ってるの? あなた、何者?」
口元に手を当てて、小声で聞いてみる。特に意味はない。
『知っておりますとも。それはもうカフカ殿の小さなときから。なあ〜に、怪しい者ではありません。ただの【ぽてまろ】でございますよ』
毛並みだけでなく声色もふわふわとしている。ぽてまろ……マシュマロみたいでおいしそうな名前だと思いながら、私は猫を追って居間へ入った。
懐かしい祖母の家は、記憶の中とは少し違っていた。走り回っていたお座敷の囲炉裏の向こうに、知らないカウンターがある。その前に台所があって、伏せた食器がそのままになっていた。
「おばあちゃんの匂いだ。懐かしいのに、なんだか新鮮。なんでだろ」
台所に立つと、幼い頃を思い出す。
長期休みに来るこの家は、私にとって特別な場所で、ちょっとした旅行気分でもあった。祖母の作ってくれるご飯はどれもあたたかくて、おいしい。いつも誰かがそばにいて、一緒に遊んだかけがえのない場所だ。
鮮やかな青の小皿を手に取って、ペンダントライトの光りを浴びせる。夜空に散らばる星空のようなキラキラした装飾が美しい。人を出迎える時に使う食器だろう。
『あたりまえでございます。【トキの庵】はお彼岸の十四日間だけ。カフカ殿が遊びに来る日は、普通の家でしたからねぇ』



