売り言葉に買い言葉だった。「絵ばかり描いてないで、勉強しなさい」には、【夢は諦めて、現実を見ろ】が含まれている。わかっている。私に才能がないことくらい。
だから、腹が立っていたの。高校一年になってもまだ、いちいち干渉してくるお母さんにイライラした。
「──こんなのいらない! もう作ってくれなくていい! だって……、おいしくないもん」
「忙しいなか、カフカのために一生懸命作ったのに。なんてこと言うの? お母さんはね、いつだって時間がなくても、カフカのことを考えて」
「頼んでない」
一時間前、リュックに二日分ほどの着替えとスティックパン、栄養補助食品やゼリーを入れて家を出た。あとは財布とスマホとポータブル電源があれば、なんとかなる。
揺られていた電車を降りて、田舎道を歩く。周りの景色は変わり映えなく緑が広がっている。
「……懐かしい。何年ぶりだろ。五年……六年?」
指折り数えながら坂を進む。さっきから、人ひとりいない。それどころか、車一台すらすれ違わない。
以前から人気の少ない場所だと知ってはいたけれど、これほどだったかな。
遠い記憶をなぞりながら、赤い橋を渡る。まるで物語の世界の入り口のように、その先は霧に包まれている。
「……なーんか不気味。ほんとにここだよね?」
橋の周りには、ところどころに彼岸花が咲いていて、地蔵のような物が目に入った。数はひとつやふたつではない。
「やば、目合っちゃったし」
息を止めて足早に橋を駆け抜けると、私はそっと振り返った。
まさか、橋が消えたりしてないよね?
小説や映画の世界では、別世界へ踏み込んでしまう定番の展開。目を凝らすけれど、なくなるというより、今来た道は霧でよく見えない。
「まっ、そんなのありえないか。ここは逃げたくても抜け出せない現実だし……」
独り言をつぶやいて数歩足を出したとき、もくもくとしていた霧が晴れてきた。見覚えのある古民家──祖母の家だ。
わりと大きな屋敷で、小さな頃はみんなで家中を走り回っていた覚えがある。よく三人で追いかけっこを……あれ?
そういえば、あの子たちは誰だったんだろう?
私、一人っ子だけど。
『お待ちしておりましたぞ、カフカ殿』
だから、腹が立っていたの。高校一年になってもまだ、いちいち干渉してくるお母さんにイライラした。
「──こんなのいらない! もう作ってくれなくていい! だって……、おいしくないもん」
「忙しいなか、カフカのために一生懸命作ったのに。なんてこと言うの? お母さんはね、いつだって時間がなくても、カフカのことを考えて」
「頼んでない」
一時間前、リュックに二日分ほどの着替えとスティックパン、栄養補助食品やゼリーを入れて家を出た。あとは財布とスマホとポータブル電源があれば、なんとかなる。
揺られていた電車を降りて、田舎道を歩く。周りの景色は変わり映えなく緑が広がっている。
「……懐かしい。何年ぶりだろ。五年……六年?」
指折り数えながら坂を進む。さっきから、人ひとりいない。それどころか、車一台すらすれ違わない。
以前から人気の少ない場所だと知ってはいたけれど、これほどだったかな。
遠い記憶をなぞりながら、赤い橋を渡る。まるで物語の世界の入り口のように、その先は霧に包まれている。
「……なーんか不気味。ほんとにここだよね?」
橋の周りには、ところどころに彼岸花が咲いていて、地蔵のような物が目に入った。数はひとつやふたつではない。
「やば、目合っちゃったし」
息を止めて足早に橋を駆け抜けると、私はそっと振り返った。
まさか、橋が消えたりしてないよね?
小説や映画の世界では、別世界へ踏み込んでしまう定番の展開。目を凝らすけれど、なくなるというより、今来た道は霧でよく見えない。
「まっ、そんなのありえないか。ここは逃げたくても抜け出せない現実だし……」
独り言をつぶやいて数歩足を出したとき、もくもくとしていた霧が晴れてきた。見覚えのある古民家──祖母の家だ。
わりと大きな屋敷で、小さな頃はみんなで家中を走り回っていた覚えがある。よく三人で追いかけっこを……あれ?
そういえば、あの子たちは誰だったんだろう?
私、一人っ子だけど。
『お待ちしておりましたぞ、カフカ殿』



