その笑顔、俺限定。

(楓side)


 高校3年生になった四月。新しいクラス発表の掲示板の前は、いつものようにざわついている。
 人の波を縫って、自分の名前を探す。そして見つけた瞬間、すぐ全体を見て――
 そこに、『藤谷悠』の文字がないことに気づいた。

 気持ちが沈んだ。
 分かってた。クラス替えなんて毎年あることだし。でも、今年も一緒がよかった。

「おーい、楓!」

 後ろから聞き慣れた声。振り返ると、悠が笑ってる。
 手を振りながら近づいてくるその顔を見ただけで、さっきのすこしの寂しさが、あっけなく吹き飛んだ。
 俺……ほんと、単純。

「クラス、違ったね」
「……うん」
「うわ、わかりやすく落ち込んでる」
「だって……やだよ」
「まぁ、休み時間とか廊下で会えるし! 昼も行くし!」

 そう言って笑う悠の無邪気さに、ため息をついた。

「……ほんと、前向きだね」
「だって離れても、俺たちは変わんないでしょ」

 その一言が、普通に胸に沁みた。


 昼休みになって、俺は新しいクラスの空気にまだ馴染めなくて、机の上の弁当をぼんやり見つめてた。
 そんなとき、教室のドアが開いて――
 
「おつかれ〜、楓! 入っていい?」
 当然のように悠が顔を出した。
 
「来ると思ったよ」
「なんでわかったの?」
「悠なら、絶対来てくれると思った」

 悠は笑いながら俺の席の前に座って、購買のサンドイッチを差し出した。
 
「これ、さっき買った。ハムチーズ、好きでしょ?」
「……覚えてたの?」
「そりゃね。俺、彼氏だもん」

 周囲の視線が一斉に俺たちに向いた。悠は周りをまるで気にしてない。

 2年の時、付き合い始めて、始めは悠の方が恥ずかしがっていたけど、クラス公認カップルみたいな扱いになっていた。
 悠はまだ、そのままの流れで今もいるみたい。俺としては周りにわかってもらえる方が、都合がいいけど。
 
 俺の手から弁当を取り上げて、「ほら、半分こしよ」って笑う。
 その笑顔を見てるだけで、胸の緊張も、不安も消えてく気がした。


 ◇◇

 放課後、昇降口で待っていた悠が靴紐を結びながら言った。

「ねぇ、楓」
「ん?」
「今度の休み、どこか行こうよ」
「いいよ。どこでもいいよ。お前となら」
「……そういうの、息をするように言う」
「本音だもん」

 外に出ると、春の風が頬にあたる。
 校門の外に並んで歩く、俺と悠の影が重なって伸びてる。

「ねぇ、悠」
「ん?」
「ちょっと目、閉じて」
「ん? なんで?」
「いいから」

 悠が少し戸惑いながら目を閉じて、
 俺は衝動のまま、そっと頬に手を添えて、軽くキスした。頬に触れた唇の温かさが、伝わった。

「……ちょっと、なんで今? てか、ここ学校の前っ!!」
 悠が顔を赤らめて、目を開けた。

「お返しは、次のお出かけの時にして」
「……行くとこ、どこでもいいの?」
「お前と一緒なら、どこでもいいよ」

 夕暮れの中で笑い合いながら、
 二人で手を繋いで歩き出す。
 風が少し冷たくても、その手は離さなかった。




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