男性はチラリとタヌちゃんを見た。
「大人しい猫ですね。猫ちゃんをカートに乗せてる人は初めて見ました」
確かに、カートに乗ってるのは大抵犬だから、タヌちゃんみたいにカートに乗る猫は珍しいのかもしれない。
「そ、そうですか? あはは。それでは、失礼しますっ」
私はひょいとタヌちゃんを抱き上げると、背負っていたリュックに入れて足早に店を出た。
タヌちゃんがしゃべる猫だなんてばれたら大変だ。
店から出る途中、私は入り口付近にミニトマトやキュウリの苗がたくさん置かれていることに気付いた。
タヌちゃんが再びヌッと顔を出す。
「お前も家庭菜園でもしたらどうだ? 節約にもなるし、どうせ暇だろう」
「うるさい」
私はタヌちゃんをぎゅっとリュックの奥へと押し込んだ。
「暇なんかじゃないし、次の職が見つかったらすぐにこの家も出て行くんだから」
だけど私は知らなかった。
そう簡単に次の職なんて見つからないし、お婆ちゃんの家には住み続けるし、結局、私は数日後には、小さなミニトマトの苗を一つ買ってしまうのだということを。



