恐る恐る振り返ると、背後にいたのは白い体に潰れた黒い鼻のパグだった。

「な、なんだ、犬か」

 私はホッとしたものの、見るとタヌちゃんがカートの中でガタガタ震えている。

「タヌちゃん?」

「ふごっ、ふごっ、ふごっ」

 目を輝かせてタヌちゃんの周りをうろうろするパグ。

「い、いいから、早くそいつをどっかにやれ!」

 カートの中で縮こまるタヌちゃん。どうやらタヌちゃんは犬が苦手なようだ。

「すみませーん」

 するとそこへ、ペット用カートを押した若い男性が現れた。

 年は二十代後半か三十代前半くらいだろうか。

 背がとても高くて、くしゃくしゃした癖のある黒髪が特徴的だが、よく見ると顔立ちは整っている。

「すみません、うちの犬、猫が大好きで。猫ちゃんを見たとたんカートから飛び出しちゃったんです」

 そう言ってパグを抱き上げると、男性は困ったように笑った。

「そうなんですね」