「そういえば、前にホームセンターで会いましたよね?」
私が恐る恐る切り出すと、橘さんは小さくうなずいた。
「うん。覚えてたんだ。猫ちゃんは元気?」
「はい……とても」
毎日元気に喚き散らしておりますとも。
……とはとてもじゃないけど言えなかった。
「……あ、家、こっちの方向でいい?」
「はい、ここを右に行ってこの坂の上です」
「じゃあ俺の家の近くだ」
橘さんが呟く。
「そうなんですか? あ、私の家はここです」
橘さんはひょいと土と肥料を担いで玄関わきに置いた。
「このあたりでいい?」
「あっ、はい。どこでもいいです。ありがとうございます」
私がお礼を言うと、橘さんは額の汗を一つ拭って向かいに立っている真新しいアパートを指さした。
「うちはあそこ。ここの斜め向かい」
「えっ、本当に近いですね」
橘さんの家は道路を渡ってすぐの場所だ。目と鼻の先と言っても良い。たぶん、徒歩一分ぐらいだろう。
「にゃあん」
すると「普通の猫でござい」という顔をしてタヌちゃんが家から出てきた。
私がいなくて寂しかったような顔をしているが、たぶんお腹が空いているのだろう。



