私たちがしばらくペチュニアの苗を眺めて待っていると、橘さんが大慌てで戻ってきた。

「すみません、ちょうど今、車が全部使われてて」

「あらら」

 私と耕太郎くんは顔を見合わせた。

 正直なところ、私は車がないと言われて内心ほっとしていた。

 何せ大学時代に免許を取ってからというもの私はずっと運転していない。いわゆるペーパードライバーなのだった。

「じゃあ、どうする?」
「自転車の荷台に紐でくくりますか?」
「えっ、重くない?」

 二人でそんな話をしていると、橘さんがちらりと腕時計を見た。

「……もうすぐお昼ですよね」

「はい」

 私も店の時計を見た。

 十一時四十五分。十時過ぎにここに着いたので、もうかれこれ二時間近くも野菜の苗を見ていたことになる。そんなに長居したつもりはなかったのに。時が過ぎるのが速すぎる。

「俺、今日十二時に上がるので、もしよければ俺の車に積みこみましょうか?」

「え? 良いんですか?」

 私はパッと顔を上げた。
 ありがたいけど……何だか申し訳ない。

 橘さんは人の好さそうな顔で笑うと店の入り口を指さした。

「ええ。耕太郎くんのお知り合いの方ということなので特別です。入り口の辺りで待っていてください」