店員さんが顔を上げる。白いワイシャツに黒いズボン、緑の園芸用のエプロンをつけて、そこに「橘」と名札をつけている。
背がとても高くて、くしゃくしゃした黒髪。色白の肌で、よく見たら整った顔立ちをしてる。
どこかで見覚えがあるなと思ったけれど、どこで彼に出会ったのか私には思い出せなかった。
「橘さん、配送用の車って借りれますか?」
耕太郎くんの問いに、橘さんは低いけれど優しい声で答える。
「配送車? 何を運ぶの?」
「これです」
耕太郎くんが私の台車に積まれている土とプランターを指さした。
「あ……えっと、耕太郎くんのお姉さんですか?」
私を見るなり、少し驚いた顔をする橘さん。長い前髪の間から綺麗な二重の目がのぞいた。
「いえ、この人は近所に住んでいる人で」
耕太郎くんが言葉を濁す。
紹介しにくいのも無理はない。私と耕太郎くんは赤の他人だ。
私と耕太郎くんの間には、タヌちゃんとミニトマトという接点しかない。
「耕太郎くんは、私の野菜づくりの師匠なんです!」
私が思い切ってそう言うと、橘さんは顔をくしゃりとさせて可笑しそうに笑った。
「そうでしたか。じゃあ、貸し出し用の車が空いてないかちょっと聞いてみますね」
橘さんが店の奥に駆けていく。



