あとで斎藤さんに聞いたところによると、元々事務には私の他に四十代の主婦も応募していたのだという。

 斎藤さんは経験者だしそちらを雇うように勧めたのだけれど、課長は「若い女性がいい」の一点張りだったのだそうだ。

 要するに、鎌田さんは元々婚活のつもりで若いだけの私を雇ったのだ。

 私の能力や素質なんて、これっぽっちも認められていなかった。

 それなのに必死に会社のために仕事を覚えようと頑張ってた。

 なんだか馬鹿みたい。私が自分がみじめでたまらなかった。

 課長の言う通り、若さ以外に取り柄なんてないのに。

 それから私の地味だけど幸せだったごく普通の人生は一変した。

 朝は時間通りに起きられないし、出勤しようと電車に乗ろうとするだけで足が震えてすくんだ。

 やっとの思いで会社についても、パソコンを開いただけでボロボロ涙が出てきた。

 見かねた斎藤さんの勧めで会社を早退し、しばらく会社を休んでもいいとは言われた。

 けれど、このままこの会社で勤め続けて課長と顔を合わせるのもつらいし、結局逃げるようにして会社は辞めてしまった。

 私はもともと物欲があまりないたちなので貯金はそこそこあった。

 だが、さすがに無職なので住んでいるアパートの家賃をずっと払えるかというのは不安だった。

 そこで実家に帰ろうと思い立ったのだが、実家にはすでに兄夫婦とその娘が住んでいて私の部屋はなかった。

 どこにも私の居場所はなかったのだ。