この家は元々、数年前に亡くなったおばあちゃんの家だった。

 それがなぜ、この家に変てこなしゃべる猫と住むようになったかというと、私が短大卒業から三年間勤めていた会社を辞めたのがきっかけだった。

 大した学歴もスキルもない私を雇ってくれたのは小さな建築会社だった。

 三人しかいない事務のうちの一人が私で、残り二人は鎌田課長という四十代の男の人と斎藤さんという五十代のパートの女性だった。

 斎藤さんはひっつめ髪と眼鏡という外見の通り厳しい人だったけれど、課長は優しかった。

 私がミスをしても庇ってくれたし、何かにつけて「大丈夫? 何か心配ごとはない?」と気にかけてくれた。

 直属の上司だし、課長は私の能力を信じて成長を認めてくれているからかばってくれる。そう思っていた。

 だけどある時、課長から会社帰りに食事に誘われてから、すべてが狂った。

 上司の誘いは断わりにくいし、課長とは年も二十も離れていてお父さんみたいな人だから大丈夫。

 そう思っていた私がバカだった。

 帰りのタクシーでホテル街に連れこまれそうになり、「ここで下ろしてください」と叫ぶ私に、課長は叫んだ。

「何のためにお前を雇ったと思っているんだ! お前の取り柄なんて若いことぐらいしかないくせに!」