「ほら、これ! 何もしてないのにいつの間にかできてたの」
私が夏の日差しに照らされた赤いミニトマトを指差すと、耕太郎くんはふむ、と鉢植えを見つめた。
「それは、虫が自然に受粉させてくれたんでしょうね。自然界ではそうして子孫を残していますから」
「そっか」
このミニトマトも、あたりまえだけど元々は野生の植物だった。
人間が特別手をかけなくても、この小さな植物は生きていく力をちゃんと持っていたんだ。
「しかし、しばらく見ない間にこんなに立派になって」
まるで親戚のおじさんみたいな物言いに、私は思わず吹き出してしまう。
「ねぇ、耕太郎くん、これもう収穫してもいいかな?」
「個人的にはもう少し置いて完熟にしたい所ですが、食べても大丈夫だと思いますよ」
「じゃ、じゃあ採るよ?」
ぷちっ。
わたしは細心の注意を払ってミニトマトを収穫した。
「それじゃあこれで」
と去って行こうとする耕太郎くんの腕を、私はぐいと引っ張った。
「待って! せっかくだからこれ、一緒に食べようよ」
私は収穫の喜びを分かち合いたい気持ちでいっぱいだった。
収獲ハイって言葉があるかどうかは知らないけど、完全にハイだった。
「え……でも、一粒しかないし」
「半分に切ればいいよ」



