「……できた」

 私は薄い水色に染まったペットボトルの水を手に庭へ出た。夏の日差しを受け、ペットボトルの水はゆらゆらと地面に影を落とす。

 ここのところの雨でしばらく外へ出ていなかったが、久しぶりに見たミニトマトの苗は以前よりも明らかに大きく成長していて、これから実が付きそうな黄色い花も何個かあった。

 『花をつけるのにも実をつけるのにもエネルギーがいるんですよ。だから大量の水と、定期的な追肥は絶対に必要です』

 耕太郎くんの言葉を思い出しながら、バケツの中の水を変え、液体肥料を足す。

『花が付いたら、ブラシとか綿棒とかで受粉させてあげてください。ただ花をゆするだけでも良いです。一度実をつけることを覚えたら、その後は順調に実をつけると思います』

 耕太郎君のその言葉どおり、黄色い花を人差し指でちょいちょいとゆすってあげる。これで合っているのか全然分からない。

 このミニトマトも、いつか耕太郎くんの家のミニトマトみたいに食べきれないほどの実をつけるのだろうか。

 ミニトマトに水をあげると、私は部屋に戻り窓際でスマホを開いた。

 まだ実ってもいないのに「ミニトマト レシピ」だの「ミニトマト 大量消費」だのそんな文字で検索をする。

 やっぱ王道はトマトサラダだよね。あっ、このミニトマトのゼリーも美味しそう。

 ……って、トマトの一つも実ってないのに気が早すぎるだろ、私。

 私はスマホを手にゴロリと畳の床に寝転がった。

 すると、肉球のついた茶色い足がぎゅむっと私のお腹を踏みつけてきた。

 うげっ!

「ちょっとタヌちゃん、何するの!」

 私が口をとがらせると、タヌちゃんはフンと鼻息を立てて笑うと、フサフサの尻尾を揺らして窓の外に鼻先を向けた。

「おい、あのミニトマト、実がなってないか?」

「えっ」

 思わずガバリと飛び起きて窓の外を見る。

 すると、さっきまでは気付かなかったけれど、ミニトマトの葉の影に一つ小さな赤い実がついているのが見えた。

「……本当だ」