「それじゃ、また何かあったら声かけてください」
耕太郎くんが右手を挙げて去ろうとする。
「あ、待って!」
私は急いで耕太郎くんを呼び止めると、冷蔵庫からキンキンに冷えたオレンジジュースを出した。
「これ、今日のお礼。あと……師匠って呼んでいい!?」
私が言うと、耕太郎くんは少しだけ嫌そうな顔をした。
「師匠はやめてください。それと――」
耕太郎くんがこの暑いのに縁側で日向ぼっこをしているタヌちゃんを指さした。
「あの猫、触っても良いですか?」
「うん」
タヌちゃんは薄目を開けて私たちを見ると、どうぞとばかりに首を伸ばして寝そべった。
耕太郎くんはそっとタヌちゃんの背中を撫でると少しだけ微笑んだ。
「最近姿を見ないから心配だったんです。ここにいたんですね」
「うん。最近はいつもうちで寝泊まりしてる」
「そうだったんですね……またここに来ていいですか? タヌちゃんと、ミニトマトの様子を見に」
「どうぞどうぞ! いくらでも来て!」
どうせ暇だし。
私が両手を広げると、耕太郎くんはプッと吹き出した。
「おかしな人ですね」
その言葉に、私は少しキョトンとしてしまう。
これまでの人生で、私はいつも「普通の人」だった。
普通の偏差値の高校に進学し、普通の短大を出て、普通の会社に就職して――会社を辞めてここに来るまでは、何の趣味も個性もない普通の人間だった。
それが今や動画サイトを見て家庭菜園を学ぶ変な小学生に「おかしな人」呼ばわりされるとは。
でも――。
「じゃあ、また来ます!」
笑顔で手を振る耕太郎くんを見送りながら、私は考える。
ちょっとぐらい人と違ってたっていっか。
私は入道雲のかかる夏空を見上げた。
ミニトマトの鉢植えががぽつんと一つある庭からは、濃い土と草の匂いがした。
耕太郎くんが右手を挙げて去ろうとする。
「あ、待って!」
私は急いで耕太郎くんを呼び止めると、冷蔵庫からキンキンに冷えたオレンジジュースを出した。
「これ、今日のお礼。あと……師匠って呼んでいい!?」
私が言うと、耕太郎くんは少しだけ嫌そうな顔をした。
「師匠はやめてください。それと――」
耕太郎くんがこの暑いのに縁側で日向ぼっこをしているタヌちゃんを指さした。
「あの猫、触っても良いですか?」
「うん」
タヌちゃんは薄目を開けて私たちを見ると、どうぞとばかりに首を伸ばして寝そべった。
耕太郎くんはそっとタヌちゃんの背中を撫でると少しだけ微笑んだ。
「最近姿を見ないから心配だったんです。ここにいたんですね」
「うん。最近はいつもうちで寝泊まりしてる」
「そうだったんですね……またここに来ていいですか? タヌちゃんと、ミニトマトの様子を見に」
「どうぞどうぞ! いくらでも来て!」
どうせ暇だし。
私が両手を広げると、耕太郎くんはプッと吹き出した。
「おかしな人ですね」
その言葉に、私は少しキョトンとしてしまう。
これまでの人生で、私はいつも「普通の人」だった。
普通の偏差値の高校に進学し、普通の短大を出て、普通の会社に就職して――会社を辞めてここに来るまでは、何の趣味も個性もない普通の人間だった。
それが今や動画サイトを見て家庭菜園を学ぶ変な小学生に「おかしな人」呼ばわりされるとは。
でも――。
「じゃあ、また来ます!」
笑顔で手を振る耕太郎くんを見送りながら、私は考える。
ちょっとぐらい人と違ってたっていっか。
私は入道雲のかかる夏空を見上げた。
ミニトマトの鉢植えががぽつんと一つある庭からは、濃い土と草の匂いがした。



