夏とトマトとたぬき猫

「タヌちゃん、隠れてて」

「うわなにをする……」

 私が慌ててリュックの中にタヌちゃんを押し込むと、小学生は今度は私の顔をじっと見つめた。

「それで……何でしたっけ。ミニトマト、育ててるんですか?」

「え? ああ、うん。私の家、あの坂の上にあるんだけど、そこで育ててるんだ。でもあなたのほど大きくならないし、実も全然つかなくて」

 私が必死に説明をすると、小学生は真面目くさった顔で小さくうなずいた。

「ちょっと見に行ってもいいですか?」

「え? うん。まあ、いいけど。坂、結構きついよ?」

「構いません」

 夏の日差しがじりじりと照り付ける中、私は自転車を押し、少年は徒歩でその後をついて二人で坂道を登る。

 私はタオルで首元を拭いながら尋ねた。

「ねぇ、君、名前は何ていうの?」

「皆川耕太郎です」

「私は藍沢美月」

「大学生ですか?」

「ううん、大学はもうとっくに卒業してる。今は……なんていうか、無職? フリーターってやつ? それで野菜でも育てて節約しようかと思ったんだ」

 私がつとめて明るく答えると、耕太郎くんは神妙な顔でうなずいた。

「なるほど、良い心がけです」

 どの辺が良いのかさっぱり分からなかったけど、ともかく私は自転車を押して自分の家を指さした。