君たちを繋ぐパレット

「何だよ、あんな簡単な問題も解けないんだろ!?」
「何よ! うるさい!」
「はんっ……体育しかできないヤツのくせして」
「何よ!!」

ずっと心の奥にしまってきた感情が、爆発するのが分かった。奥から溢れ出る思いが噴き出す。

「あんたは……みんなのことバカにし過ぎなんだよ!」
「ふんっ……負け惜しみが。何を言ってんだよ」
「うるさい!」
「ははっ。『うるさい』しか言えないのかよ」

悔しい。言い返したいけど、言葉が浮かばない……
その代わりなの?涙ばっかり頬を伝ってる……。

「……嫌いだ! あんたなんて……」
「……ふんっ」

パン! パン! と大きな拍手が2回聞こえた。

「はい。そこまでにしなさい」
わたし達が怒鳴り合う空間が、ピンと張りつめた空気に一気に戻る。
サビ先生だった。

「……喧嘩なんてしてる場合じゃ無いでしょ」
「……」
「だって……」
わたしは静かに涙を流しながら訴えた。

「ま、今日はそれくらいにしておきなさい」
「……」
「それと、クロちゃん」
「……はい」
「この後、ちょっと職員室に来なさい」
「えっ……?」
「分かった?」
「……はい」

シンと静まり返った教室は、お通夜のような雰囲気になっていた。
……といっても教室の中にいるのはハチとトラ。そしてわたしだけだけど。

先生は何もしゃべらずにわたしの前を歩く。「何でわたしだけ」と思いながらも、先生の後を付いていく。

「クロちゃん、ここ」
普段絶対に来ることの無い、職員室。場所すらわたしは初めて知った。ガラリとドアを開ける先生にそって、私も中へと足を踏み入れる。

「座って」
穏やかな声で、先生は私に促した。

「あなたは優しい子だから」
「……」
「ずっと我慢してたんでしょ?」
無言で首だけを縦に振る。

「皆、性格が違うから……分かってあげて? とまでは言わないけど……」
「……はい」
「それぞれ良い所、あるんだよ?」
「……分かってます」
ぐずっと鼻水をすすりながら、わたしは答えた。

「ハチくんはちょっと荒い所があるけど……活発だしね」
「……」
「トラくんは猫見知りな子だけど……打ち解けたら、一気に仲良くなってくれる」
「……」
「あなたは?」
「……えっ?」
「あなたは? ……どんな子なの? どんな良さを持ってるの?」
「わたし……ですか?」
「そう。自分で考えた事、ある?」
そう言うと先生は、ギイと椅子に深く腰を掛け直した。

「わたし……? ……良く分からないな……」
「あははっ!」
声を上げて笑う。

「そういう所よ」
「……どういうことですか?」
「それがあなたの良い所」
「えっ?」
「自分の事は……後回し。いっつも周りの子達に気を遣える」
「……」
「あなたみたいに、優しい子……中々いないよ?」
「はい……」
先生はわたしの頭に手を乗せた。……優しい温度が伝わってくる。

「ね? 自信持って。あなたの強みは「優しさ」だから」
「……はい」
「でもたまには、さっきみたいに自己主張もしないとね」
そう言うと、先生は左目をパチンッ!と瞑って、わたしを見つめた。

「……はいっ!」
わたしは、先生が大好きだ。……卒業なんてしなくても、先生から色々と教われるなら……それも良いなぁって思う。

次の日。

なぜか校長先生が教室にやってきた。
わたしは、ハチと喧嘩したのが原因だと思っていた――