ハチの火葬に、わたしは立ち会うことはできなかった。
どうやら家のすぐ近くに車が来ていて、そこからハチは雲の上に向かったらしい。パパが教えてくれた。ハチの骨は台所の横に置いてある。

「にゃーちゃん。せっかく兄弟ができたのにね……」
ママがわたしのほっぺを撫でてくれる。ママの指そして手のひらから悲しみが伝わってくる。……ハチのこと……大切に想ってくれてたんだね……。

「にゃあ……(うん……)」
「にゃー……!(寂しいよー……!)」

わたしも寂しい。せっかく再開できたのに。ハチが旅立ってから、パパとママが前みたいに元気になるまでに少し時間がかかった。

(やっぱり……パパとママも落ち込んでるんだ)

わたしは寂しい。でも……パパとママは、何に対して落ち込んでいるんだろう?考えれば考えるほど、わたしは分からなくなった。そんな時、パパたちをもっと落ち込ませてしまうことが発覚してしまった。

「腎臓病」
本当はもっと複雑な名前だったけど……聞いてもよく分からない。それが襲ってきたのは突然のことだった。

(……気持ち悪いっ)

ご飯を食べたわけでもないのに……今まで感じたことがないような吐き気。パパたちはお仕事だったから、家の中でたくさん吐いてしまった。誰も助けてくれる人はいない。

「にゃーちゃん!? どうしたの!」
帰ってきたパパはビックリしていた。これまで吐いたことのない回数、吐いたから。量も色も……今までとは全然違った。

(……うーん……)
(苦しい……)

ずっとパパたちが帰ってくるまで、うずくまっているしかない。そういえば……最近トイレも全然出ていない。お腹も痛かった。

(やばいなぁ、これ……)

全身が震えるように寒く、まるで外で生活しているかのよう。パパたちがエアコンを付けて行ってくれたのに。

その後のことはあんまり覚えていない。パパが急いで車に乗せてくれた所で……わたしの意識はなくなっていったから。

「……急性……ですか?」
「はい……残念ながら……」

ぼんやりとした意識の中で、パパと誰かの声が聞こえる。内容は難しいから分からないし、所々しか聞き取れない……でも、何となくヤバいんだろうなということだけは分かった。

「……はぁ」
「にゃーちゃん……」
帰りの車の中で、パパは泣いていた。ごめんね。何か……車の中のパパはいつも泣いてる気がするよ……。わたしのせいだ。

寒い……
気持ちが悪い。

(苦しい……息が……)

しばらくすると呼吸することさえ難しくなっていた。吸っても吸っても……空気が入ってこない。

「先生……何て?」
「急性の腎臓病らしい……」
「にゃーちゃん……」
ママ……目に涙を浮かべながら、わたしに頬を摺り寄せる。ママ……わたし苦しい……。

はっ……はっ……はっ……
肩を大きく動かし、いつもの何倍もの速さで息をしないと……苦しい。

「……今夜が山って言われたよ」
「そんな……」

はっ……はっ……はっ……

(もう……無理だ……息ができない……)

ぐぅーっと体全体が苦しくなるのが分かる。
わたし……迷惑かけてばっかりだ……ごめん。パパ。ママ……

もっとたくさんパパと遊びたかったなぁー……
もっとたくさんママに良い子良い子して欲しかったなぁー……

もっと――
たくさん――

「にゃーちゃん!?」
「ねえ! にゃーちゃん?」
「ねえ! ねえ!」

消えゆく意識の中で……誰かがわたしの背中を揺すっているのが分かる……
分かった。ママでしょ?この手。
分かるよ。わたしには――

あっ……わたしの頭を触ってる、この手……
パパでしょ?
分かるよ。わたしには――

パパとママは幸せだったのかな
それとも迷惑だった?
わたしがお家に来ちゃって……

わたしは幸せだったよ
パパやママと一緒に過ごせて、楽しかった。

幸せって……こういう気持ちなんだ……

「……にゃーちゃん」
「幸せな日々をありがとう……」
「うちに来てくれて、ありがとう……」
「また、姿を変えて……会いにきて……」
「にゃーちゃん……」
「……ありがとう……」

遥か遠くで、パパとママの声が……かすかに聞こえる。

そんな……パパとママも幸せって言ってくれるの?
嬉しいよ? わたし……

パパとママに――
出会えて良かった。

ありがと

視界が暗闇に包まれた――