ハチの体調は、日に日に明らかに悪くなっていた。医者じゃないわたしが見ても明らかなくらいに。でも、パパもママも……もちろんわたしも、それを口にすることはなかった。
ハチが一番分かっているはずだから。
わたし達ができることは……いつもと同じようにハチと接することだけ。
(ねえ? ハチ)
(……なんだよ)
(ママとパパ、優しいでしょ?)
(……)
(何よ。そう思わないの?)
(……いや、思うよ)
(でしょでしょー? 優しい人もさ、いるんだよ)
(あぁ、そうだな)
(てかさ、体調……大丈夫なの?)
(……なんだよ。分かり切ったこと聞くなよ)
ハチはまだこのお家に来て間もない。だから……ハチのお気に入り場所もない。パパとママは「外が見える場所の方が良いかな」と言って、ハチのベッドを外が見える窓側に作ってくれた。
「はっちゃん、大変だったね」
「よく今まで頑張ったな。大変だったろ」
ママたちは手が空くと必ずハチの体を優しく撫でた。本当はわたしもやって欲しいなと思うけど……ぐっと我慢する。
「外は……危険が多いな」
「でも、難しいわよね。家の中だと自由が無い気もして」
「……そうだなぁ」
「外をのびのびと走り回れる方が幸せなのかな……とか思ったりもするし」
「うん」
「どっちが猫ちゃんにとって……幸せなんだろうね」
なるほど……考えたこともなかった。外は怖いとずっと思っていたけど……確かに自由に走り回ることができるし、遊び場所だってある。窓の外を見ていると、たまに飛んでいる鳥だったり、蝶だったり。追いかけたくなることも多い。
(「幸せ」かぁ。……わたしにとっての幸せって……何なんだろう)
(ねえ、ハチ)
(……なん……だよ)
(……大丈夫?)
(ん? あぁ。ちょっと眠いだけだから)
(ハチってさ、幸せ?)
(……どうだろ。さっき言ってたことだろ?)
(そう。幸せって何なんだろうね)
(難しいことは分からないけどさ……)
(うん)
(そういえばこの前、トラに会ったぞ)
(……えっ?)
トラ。ずっと気になってた。ハチとはこうやって再開できたけど……トラは何をしているんだろう?って思ってた。上手くやれてると良いけど。
(どこで?)
(……公園)
(何? トラも……外にいるってこと?)
(……詳しくは……聞いてないけど……あいつも逃げ出してきたっぽいぞ)
(そうなんだ……)
確かにトラは気難しい。考え込んでしまうタイプだったから……ハチと同じように、自分と合わない人の家に行ったら、逃げ出すのも頷ける。
(元気だと良いけど……)
(……そう……だな……)
(ねえ、大丈夫?)
(……ちょっと眠いから……少し寝るわ)
(うん……お休み)
そのまま、ハチが目を開けることはなかった。
わたしは泣いた。ハチは幸せだったのだろうか?外で自由に生きていた方が幸せだったのだろうか?……わたしには分からない。
パパとママも泣いていた。「よく頑張ったね」「よく頑張ったね」と目を開けることのないハチを……ずっと優しく撫で続けながら――
ハチが一番分かっているはずだから。
わたし達ができることは……いつもと同じようにハチと接することだけ。
(ねえ? ハチ)
(……なんだよ)
(ママとパパ、優しいでしょ?)
(……)
(何よ。そう思わないの?)
(……いや、思うよ)
(でしょでしょー? 優しい人もさ、いるんだよ)
(あぁ、そうだな)
(てかさ、体調……大丈夫なの?)
(……なんだよ。分かり切ったこと聞くなよ)
ハチはまだこのお家に来て間もない。だから……ハチのお気に入り場所もない。パパとママは「外が見える場所の方が良いかな」と言って、ハチのベッドを外が見える窓側に作ってくれた。
「はっちゃん、大変だったね」
「よく今まで頑張ったな。大変だったろ」
ママたちは手が空くと必ずハチの体を優しく撫でた。本当はわたしもやって欲しいなと思うけど……ぐっと我慢する。
「外は……危険が多いな」
「でも、難しいわよね。家の中だと自由が無い気もして」
「……そうだなぁ」
「外をのびのびと走り回れる方が幸せなのかな……とか思ったりもするし」
「うん」
「どっちが猫ちゃんにとって……幸せなんだろうね」
なるほど……考えたこともなかった。外は怖いとずっと思っていたけど……確かに自由に走り回ることができるし、遊び場所だってある。窓の外を見ていると、たまに飛んでいる鳥だったり、蝶だったり。追いかけたくなることも多い。
(「幸せ」かぁ。……わたしにとっての幸せって……何なんだろう)
(ねえ、ハチ)
(……なん……だよ)
(……大丈夫?)
(ん? あぁ。ちょっと眠いだけだから)
(ハチってさ、幸せ?)
(……どうだろ。さっき言ってたことだろ?)
(そう。幸せって何なんだろうね)
(難しいことは分からないけどさ……)
(うん)
(そういえばこの前、トラに会ったぞ)
(……えっ?)
トラ。ずっと気になってた。ハチとはこうやって再開できたけど……トラは何をしているんだろう?って思ってた。上手くやれてると良いけど。
(どこで?)
(……公園)
(何? トラも……外にいるってこと?)
(……詳しくは……聞いてないけど……あいつも逃げ出してきたっぽいぞ)
(そうなんだ……)
確かにトラは気難しい。考え込んでしまうタイプだったから……ハチと同じように、自分と合わない人の家に行ったら、逃げ出すのも頷ける。
(元気だと良いけど……)
(……そう……だな……)
(ねえ、大丈夫?)
(……ちょっと眠いから……少し寝るわ)
(うん……お休み)
そのまま、ハチが目を開けることはなかった。
わたしは泣いた。ハチは幸せだったのだろうか?外で自由に生きていた方が幸せだったのだろうか?……わたしには分からない。
パパとママも泣いていた。「よく頑張ったね」「よく頑張ったね」と目を開けることのないハチを……ずっと優しく撫で続けながら――



