「にゃー!(出たー)!」
わたしは無事に、ウンチと一緒に出すことができた。報告した時のパパとママの顔……多分一生忘れないと思う。涙を流しながら「良かった」「良かった」って……何度も言っていた。

(良かった……)

自分の命が助かったことに対してホッとしたけど、また今度ハチに出会ったら言ってやろうと思っている。「ちゃんと優しい人もいるんだよ」って。

いつも通りパパとママがお仕事行った後、わたしは窓の外をパトロールすることにした。
痛みもなく飛んだり跳ねたりできるのって、すごく気持ちが良いことが分かった。

(んっ?)

向かいの家の角。尻尾のようなものがゆらゆらと揺れている。

(……ハチかな?)

じっ……と見つめていると、ハチの顔がひょこっと顔を覗かせた。

(ハチ……)

ハチはゆっくりとわたしの方に近づいてきた。「言ってやるぞ」とドキドキしながらハチを見ていると、赤いものがハチの右腕に浮かび上がっていることに気付く。いつも白かったのに。

(ハチ!)
(……クロ。どうよ? 調子は)
(ねぇ! 何? その腕にある赤いやつ)
(ん? あぁ……これか。昨日喧嘩した時にやられたんだよ)
(えっ? 喧嘩? 喧嘩したの?)
(公園で寝てたら、やられた)
(……ちょっと……大丈夫なの?)
(まぁ、平気じゃないか? 放っとけば治るだろ)
(……そうかなぁ)
(少しお腹が痛いけど……平気じゃね?)

猫同士で喧嘩……パパやママと一緒に暮らしているわたしには絶対にないこと。やっぱり……外は怖い。

(ねえ)
(何だよ)
(分かったよ。やっぱり良い人もいるんだよ)
(あっそ。俺には関係ないね)
(ハチもさ、良い人と暮らせるように……誰かのお家に行きなって)
(もう良いって)

ハチはあまりわたしと話をしないうちに、視線の届かない所へと歩いていった。

(……どこ行くのよ……こんなに寒いのに)

ハチのことがとても心配。怪我だってしてるし……でも、窓を隔てたわたしには、心配することしかできない。

(あっ……!)

その時……わたしは、あることを思い付いたのだ。早速パパとママに試してみようと思う。

「にゃ~ん」

「あれっ? どうしたの? 急に甘えん坊になって」
「にゃーん」
「にゃーん」
頭をママにコツンコツンとぶつけてみる。手の平にスリスリと頭をこすりつけてみる。
「何か、にゃーちゃん……すっごい甘えるのよねー」
「へえ。どうしたんだろうね? 急に」
「さあ……」
元々大好きだけど……もっとママとパパにスキンシップを図ってみることにした。目的は……「もう1匹猫を飼いたいね」と思ってもらうこと。きっと上手くいくはず。

(もしかしたら……ハチもこのお家に住めるかも知れない……)
(一緒に生活できるかも知れない……)

わたしはハチのために必死だった。でもパパたちにわたしの想いが通じることはなく、「私達に慣れてきてくれたのかもね」で終わってしまう毎日……。

(どうしたら良いの……?)

「もっと先生に色々と聞いておけば良かったな」と後悔する日々を送っていた。

(こうなったら……)

わたしは次の作戦を思く。「これからきっと上手く行くはず!」暗闇の中に、一筋の光が射し込んできたような気がする――