コツ……コツ……コツ……
(……!)
足音で目を覚ます。この音とリズムは、パパの足音。だいたいいつも帰ってくる時間は決まってる。
ガチャッ……
(やっぱり。パパだ!)
ガララと玄関が開く音がすると、それと同時にふわっとパパの匂いが家の中に入ってくる。
「にゃーちゃん、ただいまー」
「にゃーん!(おかえりー!)」
わたしに挨拶すると、「お留守番ありがとね」と言いながら、頭を優しく撫でてくれる。パパの手の温度も……匂いも声も。わたしは大好き。
(やっぱ好きだなぁー……パパとママ)
わたしはゴロゴロ……と喉を鳴らす。
「ママ、まだ帰ってないから……にゃーちゃんのごはん、出そうか?」
「にゃあ!(うんっ!)」
パパが用意してくれたご飯を食べる。わたしはパパが「餌」と言わずに「ご飯」と言ってくれるところが、本当に好き。
相当外は寒いらしい。だって窓が曇っているから。理科の授業で……何かやった気がするけど……わたしは理科も苦手だったから、あんまり覚えてない。
夜の9時。わたしが右腕を必死に綺麗にしている横で、パパとママはテレビに夢中。
(んー……ちょっとやってみようかなぁ……)
夕方、ハチと話をしたことで、わたしの中にある考えが浮かんでいた。
アムッ……アムッ……アムッ……
「あ、にゃーちゃん! こらっ」
「……」
アムッ……アムッ……アムッ……
「駄目駄目駄目。これ、噛んだら駄目なやつよー」
「……」
「あらあら……にゃーちゃん、遊び道具だと思ったのかな?」
にこにこしながらママは、わたしの頭を優しく撫でた。
わたしはママの電話から延びている黒い線を、噛んでみた。怒られると思って。なのに……ママはちっとも怒らない。
(……何でー? 怒るんじゃないの……?)
(……そうだ!)
「にゃっ!!(えいっ!!)」
わたしの頭を撫でる手を、ガブリと噛んでみた。……ちょっと力を抜いて。
「痛い痛い……あははっ! あら……優しく噛んでくれてるんだね」
「優しい子ね」
真剣に噛んでるのに……なぜかママは笑って噛まれている。
「にゃっ……(何よ……)」
(全然怒らないじゃない……調子狂うなぁ)
ふいっとママから視線を反らして、わたしはカーテンレールの近くまでピョン!と跳ね上がった。
(ふんっ……)
もやっとしながら、窓の外をじっと眺める。
(ハチが言っていたのと……全然違うじゃない……)
(ハチが言ってるような人ばっかりじゃないのかな)
横目でちらっとパパとママを見た。わたしの方は気にせずにテレビに視線を戻している。
「何よ、さっきまで噛まれてたくせに……」と思いながら、わたしも香箱座りの体勢を取った。
(こっちに来ないのね……)
(……またテレビ見てるじゃない)
「優しい子よ。あの子は」
ママがわたしに噛まれた場所を見せながら、パパに言った。
「あぁ。優しいし、賢い子だ」
「ね。きっとわたし達に合わせてくれてるのかもね」
「あそこにいるけど……きっと言葉分かってるんじゃないかな」
「にゃーちゃん」
ママがこちらを見て、にっこり微笑む。
(恥ずかしいな……何よ)
(こっち来たら、もっと強く噛んでやるんだから!)
しかし、待てど暮らせどパパとママはわたしの所に来る気配は無い。そしてわたしはふと気が付いた。
(もしかして……敢えてなのかな?)
そう。わたしは、パパとママは敢えてわたしに無理に近づこうとしていないような気がしたのだ――
(……!)
足音で目を覚ます。この音とリズムは、パパの足音。だいたいいつも帰ってくる時間は決まってる。
ガチャッ……
(やっぱり。パパだ!)
ガララと玄関が開く音がすると、それと同時にふわっとパパの匂いが家の中に入ってくる。
「にゃーちゃん、ただいまー」
「にゃーん!(おかえりー!)」
わたしに挨拶すると、「お留守番ありがとね」と言いながら、頭を優しく撫でてくれる。パパの手の温度も……匂いも声も。わたしは大好き。
(やっぱ好きだなぁー……パパとママ)
わたしはゴロゴロ……と喉を鳴らす。
「ママ、まだ帰ってないから……にゃーちゃんのごはん、出そうか?」
「にゃあ!(うんっ!)」
パパが用意してくれたご飯を食べる。わたしはパパが「餌」と言わずに「ご飯」と言ってくれるところが、本当に好き。
相当外は寒いらしい。だって窓が曇っているから。理科の授業で……何かやった気がするけど……わたしは理科も苦手だったから、あんまり覚えてない。
夜の9時。わたしが右腕を必死に綺麗にしている横で、パパとママはテレビに夢中。
(んー……ちょっとやってみようかなぁ……)
夕方、ハチと話をしたことで、わたしの中にある考えが浮かんでいた。
アムッ……アムッ……アムッ……
「あ、にゃーちゃん! こらっ」
「……」
アムッ……アムッ……アムッ……
「駄目駄目駄目。これ、噛んだら駄目なやつよー」
「……」
「あらあら……にゃーちゃん、遊び道具だと思ったのかな?」
にこにこしながらママは、わたしの頭を優しく撫でた。
わたしはママの電話から延びている黒い線を、噛んでみた。怒られると思って。なのに……ママはちっとも怒らない。
(……何でー? 怒るんじゃないの……?)
(……そうだ!)
「にゃっ!!(えいっ!!)」
わたしの頭を撫でる手を、ガブリと噛んでみた。……ちょっと力を抜いて。
「痛い痛い……あははっ! あら……優しく噛んでくれてるんだね」
「優しい子ね」
真剣に噛んでるのに……なぜかママは笑って噛まれている。
「にゃっ……(何よ……)」
(全然怒らないじゃない……調子狂うなぁ)
ふいっとママから視線を反らして、わたしはカーテンレールの近くまでピョン!と跳ね上がった。
(ふんっ……)
もやっとしながら、窓の外をじっと眺める。
(ハチが言っていたのと……全然違うじゃない……)
(ハチが言ってるような人ばっかりじゃないのかな)
横目でちらっとパパとママを見た。わたしの方は気にせずにテレビに視線を戻している。
「何よ、さっきまで噛まれてたくせに……」と思いながら、わたしも香箱座りの体勢を取った。
(こっちに来ないのね……)
(……またテレビ見てるじゃない)
「優しい子よ。あの子は」
ママがわたしに噛まれた場所を見せながら、パパに言った。
「あぁ。優しいし、賢い子だ」
「ね。きっとわたし達に合わせてくれてるのかもね」
「あそこにいるけど……きっと言葉分かってるんじゃないかな」
「にゃーちゃん」
ママがこちらを見て、にっこり微笑む。
(恥ずかしいな……何よ)
(こっち来たら、もっと強く噛んでやるんだから!)
しかし、待てど暮らせどパパとママはわたしの所に来る気配は無い。そしてわたしはふと気が付いた。
(もしかして……敢えてなのかな?)
そう。わたしは、パパとママは敢えてわたしに無理に近づこうとしていないような気がしたのだ――



