君たちを繋ぐパレット

(……何、そんなことがあったんだ)
(あぁ。こりごりだよ、もう)

わたしはハチに何と言って良いのか……分からなかった。パパもママも、わたしにとっても優しいから。

(お前はよく家にいれるよな)
(……えっ?)
(人間なんてさ、俺達のこと道具みたいしか見てないだろ?)
(道具……)
(そうだよ。自分の好きな時に自分の側に置いておきたいとか)
(……)
(なでたい時に頭なでるとかさ)
(……うん)
(自分の言うこと聞かないと、『何で言うこと聞かないの!』みたいな感じだろ?)

(俺の気持ちなんかさ、何一つ考えてくれないじゃんか。あいつら)
(学校で習ったことと、全然違うじゃねーか)

わたしとハチを隔てている窓は、とっても薄いのに……何だかすごく分厚い窓になっているような気がした。ハチの性格は良く知ってる。一体、どんなことをハチに伝えれば良いんだろう……?

(いや、ほら! ……その人が、あんま良くない人だったのかも)
(はぁ? 何だよお前。人間の肩、持つのかよ)
(えっ? そういうわけじゃないけど……)
(ふん。随分と飼いならされてるじゃねーか)
(何よ……その言い方)
(言葉の通りだよ。お前、騙されてるぞ)

そこまで捻くれた性格じゃないはずなのに……よっぽどハチにとっては嫌な体験だったみたい。

(そうだ! わたし、ハチがお家に入れるように……パパとママに頼んでみるよ!)
(……)
(良くない? 外……寒いでしょ?)
(いらねーよ。余計なことすんな)
(……えっ?)
(だってさ……)
(余計なことすんなって言ってんだろ)
(……何で……)
(外の方が、せいせいするよ)
(風邪引いちゃうよ……?)
(うるせーな。お前はそこで騙されて生きてりゃ良いだろ)
(……)
(……じゃあな)

ハチはくるりと向きを変えて、ゆっくりと歩き出した。少し震えているようにも見える。

(あぁ、そうだ)

わたしの方に振り向いて、ハチは言った。

(トラも、逃げ出したみたいだぞ)
(えっ?)
(昨日、あいつっぽいヤツ、見かけたから。たぶんトラだと思う)

そう言うと、再びわたしにお尻を向けて歩き出した。

(ねえ!)
(ねえ!)
(ハチってば!)

ハチは振り向くことなく、向かいの家の裏に消えた。
せっかく会えて嬉しかったのに……わたしの心は雨が降る直前の空のように、もやもやとしていた。

(パパとママも……わたしのこと騙してるのかな)
(ハチも……あれじゃ風邪引いちゃうよ……お家の中でもこんなに寒いのにさ……)

「わたし達、何のためにここに来たんだっけ……?」そんなことを思いながら、襲ってきた睡魔に勝てず、わたしはゆっくりと瞼を閉じた。

(……どうしたら良いんだろう)