ラティアが自身の宝石の病を治す為に、他国の研究施設で宝石の病を研究している研究者であるディークとラティアの騎士である者達を数名連れて、唯一、宝石の病を治す事が出来るかもしれないという女神の宮殿に向かう為、城から出発する日の早朝。

 心地良く吹く澄んだ風が、木々を揺らし、小鳥のさえずりが時折、耳に届く。

 そんな中、ラティアは身に纏っている淡い空色のドレスを見靡かせ。
 
 時々、風によって靡く髪を押さえながら、晴れ渡る早朝の空を見上げていた。



「ラティア王女、昨日は良く眠れましたか?」

 そう声を掛けてきたのは昨日、玉座の間で顔を合わせたばかりのディークという青年であった。

 爽やかな顔とは対照的に、真面目そうな印象を与える声をしているなとラティアは密かに思いつつ、左隣に立つディークの顔を見て、問い掛けに答える。

「ええ、よく寝れましたよ」

 一応、まだ出会ってそんなに経っていないので、ラティアは敬語を抜かずにいたのだが。

「そうなんですね。なら、よかったです。あ、あと、大丈夫ですよ。敬語でなくても」
「あら、そうなのですか?」
「はい。ラティア王女殿下が話しやすい方で構いません」

 目的の場所(女神の宮殿)に着くまで、彼ディークとは関わる事になるのだから、いつまでも敬語で話すのは、距離を感じさせてしまうかもしれないとディークも思ったのだろうか。

「そうね。では、改めて、よろしく。ディーク」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いしますね」



「お父様、ロイス王子殿下、カイル王子殿下、行って来ますね」

 ラティアは見送りに来てくれた異母兄であり、王子2人のロイス、カイルと父親であり国王でもあるアルドアにそう告げた。

「ディークと言ったな? ラティアの事を宜しく頼んだぞ」
「ないとは思うが、ラティアに手を出すなよ?」

 妹であるラティアのことをとても大切に思っている兄王子2人ロイスとカイルは、ラティアの側にいるディークにそう伝える。

「はは、わかっておりますよ」

 爽やかな笑いを浮かべながら、ディークは思う。そんな身の程知らずな事をするはずがないだろうと。

 ラティアはそんなディークと兄2人の会話を近くで聞きながら、心の中でディークに対しての想いを巡らしていた。

 ディークは何故、宝石の病を治す事が出来るかもしれない場所まで、共に同行してくれるのだろうと。
 
 この時、ラティアはまだ、ディークが何を思って自分に付き添い、ついて来てくれるのかがわからなかった。