実の父親であり、このラピティーア国の国王であるアルドアから呼び出されたのは、季節が丁度、夏に移り変わった初夏の始めの時期だった。

 私はそわそわしながらも陛下が居るであろう玉座の間に足を向けて王宮内の通路を歩いていた。

 昼過ぎの心地良い風が自身の肌に当たり、コツコツというラティアの足音が通路に響き渡る。
 


「すまんな、突然、呼び出してしまって」

 アルドアの言葉にラティアは首を横に振り、優しげな微笑みを浮かべながら、青色の瞳をアルドアに向ける。

「大丈夫ですよ。それで、何用でしょうか?」
「ああ、お前の宝石の病についてのことだ」

 アルドアの発した言葉にラティアの顔が険しくなる。
 まさか、自分の病のことだとは思ってもみなかったラティアは何を言われるのかと身構えながら、アルドアの次の言葉を待つ。

「お前の宝石の病は治し方が解明されていない病であるが、その宝石の病の研究をしている一人の男が、宝石の病の治し方がわかるというんだ。出てきてよいぞ」

 アルドアは玉座の席の左斜め後ろを振り返り、そう告げる。
 アルドアの呼びに応じて、玉座の席の左斜め後ろからそっと姿を現した自分とあまり歳が離れていないようにも見える青年はラティアの顔を見て、軽く会釈する。

 黒髪にコバルトブルーの瞳をした目の前に立つ青年こそが宝石の病の治し方がわかる唯一の者。
 ラティアはこの男は何者なのかという疑問を持ちながらも軽く挨拶する。

「初めまして、第一王女のラティアと申します」

 そう名乗ったラティアに目の前の青年は、優しく微笑みながら一歩前へと歩み寄せる。青年から微かに医薬品の匂いがしたのは気のせいであろうか。
 
 そんなことを思いながらラティアはコバルトブルーの瞳をした青年をじっと見据えた。

「初めまして、ディークと申します。サティアーヌ国の研究施設で宝石の病の研究をしている者です」

 ディークは研究者らしい白衣を見に纏っておらず、黒の長袖のTシャツと紺色のズボンというラフな格好をしていた。

「ラティア、私はお前を傷つけてしまったことを父親として悔いているんだ。どうにかして、お前の病を治してやりたい。そう思って今まで色々調べてきたが、結局、お前の病を治す方法はわからず時だけが経ってしまった」

 アルドアはラティアが自分を庇い腕に傷を負ってしまったあの日からずっと、娘であるラティアに対しての罪悪感が心に残り続けていた。

「陛下……」

 ラティアは両手を強く握りしめながら、そこまで自分のことを思って動いてくれていたのに、自分はずっと負の感情を抱いていたという事実に恥ずかしむ。

「ラティア、このディークという男と共に宝石の病を治すことが出来る場所へ行ってもらいたい。だが、決めるのはお前だ」
「私の病が治るかもしれないのなら、私は行きたいです」

 ここまでしてもらったのに、行かないと言う選択肢はラティアの中にはなかった。
 そして、もう病が治らないと決めつけて、自身の本当の気持ちから逃げる事はしたくない。

 ラティアはそう強く思いながら、目の前にいる王であり父親でもあるアルドアを見た。