ラピティーア国行きの帰りの船の中。
 バロンとベルロットが食堂でお昼を済ませている間、ラティアとハレクは甲板から見える陽の光に照らされた透き通る水面を見つめながら会話をしていた。

「ディーク殿とは女神の宮殿で別れたと言っていましたが、本当は違うんじゃないんですか?」
「ハレク、貴方って意外と鋭いわよね」
「まあ、長年護衛としてお側におりますから、殿下が何か誤魔化していることくらいはわかります」

 ハレクのそんな言葉にラティアはハレクの顔を見て悲しげに微笑む。

「ディークは、私の病を治すことの代価に命を落としてしまったわ…… 私は彼を助けることさえ出来なかった」
「そうなんですね……」

 ディークは命をかけて、ラティアの病を治そうとしていたことをハレクは知っていた。
 あの日、ラピティーア国の城から出発した日の夜。王都の宿屋に泊まった時。

「眠れないんですか?」
「はい。中々、寝付けなくて……」

 同じ役職を担うベルロット、バロンと他国の研究者であるディーク。
 
 そんな自分を含めて四人の男達が同じ部屋に居ながら、ハレクは中々眠りにつくことが出来なかった。

 けれど、それは自分だけではなかったらしい。

「そうなんですね。実は俺も眠れなくて」
「そうですか、一緒ですね」
「はい。あの、俺、凄く気になって、治し方が解明されていない宝石の病をどう治すつもりでいるんですか?」
「儀式です。女神の宮殿には不思議な力がある。その力を使って宝石の病を治すことが出来るかもしれないんです。俺は何があっても例え自分の命を犠牲にしたとしても、ラティア王女の宝石の病を治すつもりでおります」

 ディークはもしかしたら、殿下のことを一人の人として大切に思っていたのかもしれない。

 ラティアを見るディークの顔が時折、凄く優しく愛おしそうにハレクには見えた。

 きっとそれは気のせいではなかったのかもしれない。

「失う物は大きかったとしても、彼は殿下に生きて欲しかったのでしょう。自分の命を犠牲にする程に。それに殿下が強くまた会いたいと思っていれば来世でまたきっと巡り会うことが出来ます」
「そうね、私は彼に自信を持ってこの世で悔いなく生きたわと言えるように、これからの道を歩んでいくわ」
 
 そう決意したラティアの顔は少し大人びて見えた。
 ハレクはこの先も隣にいる自分の主である彼女の側で騎士として人として支えていこう。
 改めてそう強く心に誓ったのであった。

✴︎

 ラピティーア国へと帰ってきたラティア達は、玉座の間で病が治ったことを現国王であり父親でもあるアルドア、そしてラティアを見送ってくれた兄王子二人に告げる。

「陛下、ロイス王子、カイル王子殿下。宝石の病が治ったことをご報告致します。私が留守の間、私の代わりに業務を行っていただいたロイス王子とカイル王子殿下には感謝しています。ありがとうございます」

 ラティアがそうお礼と報告を声に乗せて伝えれば、目の前にいる国王陛下、兄王子二人は安堵した顔をする。

「おお、治ったのか。よかった……」
「ラティア、お前にここまで丁寧にお礼を言われたのは久しぶりだなぁ~!! お兄ちゃん達、何か嬉しぞぉ~!」
「おい、ロイス。お前のその言い方、何か癪に触るから辞めてくれないか」
「なんだよぉ~! カイル、お前、本当、冷たいなぁ」

 城から離れていた期間が長かったせいか、ラティアは見慣れていた兄王子二人の会話さえも、とても心地良く新鮮に感じられた。



 玉座の間を後にしたラティアは、廊下の通路を歩いていたが、ふと立ち止まり、窓越しに見える晴れた空を見上げて、優しい笑みを浮かべた